プロジェクト別原価計算の導入目的と役割
全社損益では見えない赤字案件を可視化する
会社全体の月次決算が黒字であっても、内訳を見ると一部の案件が大きく赤字で、他の黒字案件がそれを覆い隠しているというケースは珍しくありません。プロジェクト別原価計算を導入する最大の目的は、この「平均化による赤字の隠蔽」を防ぐことにあります。案件ごとに収益と原価を紐づけて初めて、どの受注が利益を生み、どの受注が利益を静かに食いつぶしているかが見えてきます。経営判断は全社の平均値だけでは行えず、案件単位の解像度こそが経営には不可欠なのです。
見積と実績を比較できる仕組みをつくる
プロジェクト別原価計算のもう一つの役割は、受注時に立てた見積原価と、実際に発生した原価を同じ土俵で比較できるようにすることです。見積段階で想定した工数や外注費と、進行後の実績を突き合わせることで、どの工程で乖離が生じたのかを具体的に特定できます。この比較の仕組みを持たない会社では、赤字の原因が「なんとなく忙しかったから」で片付けられてしまい、翌年も同じ失敗が繰り返されます。見積と実績を並べて振り返る文化こそが、原価計算の本質的な価値だと言えます。
経営判断のスピードを上げるための基盤になる
プロジェクト別の原価が可視化されていれば、値引き交渉や追加受注の可否を、勘や経験則ではなく実際の数値に基づいて判断できます。たとえば追加案件を受けるべきか迷ったとき、類似案件の原価実績データが手元にあれば、想定利益率をその場で試算できます。逆にこの基盤がない会社は、営業担当者の肌感覚だけで受注可否を決めることになり、意思決定のスピードと精度の両方が犠牲になってしまいます。原価計算は経理のための事務作業ではなく、経営スピードを支えるインフラなのです。
建設業の工事台帳の考え方が原点にある
プロジェクト別原価計算という考え方自体は、実は目新しいものではありません。建設業では古くから「工事台帳」という形で、工事ごとに材料費・労務費・外注費を集計し、竣工までの採算を追いかける仕組みが確立されてきました。この工事台帳の思想を、ソフトウェア開発や広告制作、コンサルティングなど他のプロジェクト型ビジネスに応用し直したものが、現在私たちが呼んでいるプロジェクト別原価計算です。業種が変わっても「案件ごとに採算を管理する」という本質は変わらないのです。
私が新卒で経験した和議とキャッシュフロー
私自身、1991年に不動産デベロッパーの朋友建設に新卒入社し財務部に配属された2年後、会社が和議(現在の民事再生に相当します)を経験しました。数字が合わない中で毎日キャッシュフローと向き合ったあの日々が、私のキャリアの原点になっています。全社の資金繰りがどれほど厳しくても、どの工事案件が資金を生み、どの案件が資金を吸い取っているかを把握できなければ、再建に向けた具体的な打ち手すら立てられません。この経験が、後にプロジェクト管理会計という手法を体系化する出発点になりました。
導入は経理部門だけの仕事にしない
プロジェクト別原価計算の導入でよくある失敗は、これを経理部門だけのプロジェクトにしてしまうことです。原価は現場のプロジェクトマネージャーが日々の業務の中で発生させているものであり、経理が事後的に伝票を集計するだけでは、どうしても実態とのズレが生じてしまいます。私がこれまで200社を超える企業を支援してきた中でも、導入がうまくいった会社は例外なく、現場と経理が同じ数字を見ながら会話できる状態をつくっていました。原価計算は全社的な仕組みとして設計する必要があるのです。
システム化によって初めて継続可能になる
プロジェクト別原価計算は、Excelでの手集計から始めても構いませんが、案件数が増えるほど属人化と入力漏れのリスクが高まっていきます。継続的に運用するためには、工数入力や経費計上の段階からあらかじめ案件コードに紐づけてデータを取得できるシステムが必要になります。私たちがeMplex PBMを開発したのも、この「無理なく継続できる仕組み」を提供するためでした。導入目的を明確にした上で、現場が負担なく続けられる運用設計を選ぶことこそが、成功の分かれ道になります。
まとめ
プロジェクト別原価計算は、経理の負担を増やすための作業ではなく、案件ごとの採算という経営の実態をありのままに映し出す鏡です。全社の平均値では隠れてしまう赤字案件を見つけ出し、見積と実績の差から学び、次の意思決定のスピードを上げる。そのために存在しています。原価計算は締めるためのものではなく、経営を動かすために育てるもの。この視点を持てるかどうかが、導入の成否を静かに、しかし確実に分けていくのだと私は考えています。