上場準備のための内部統制実務
内部統制の目的は「不正の防止」だけではない
結論として、内部統制の本来の目的は不正防止だけでなく、経営判断に必要な情報が正確かつタイムリーに経営陣に届く仕組みを作ることにあります。理由は、上場企業には投資家に対する開示責任があり、その前提となる社内の情報の正確性が保証されていなければならないからです。実際、内部統制を「不正を摘発するための監視の仕組み」としてしか捉えていない企業では、現場が萎縮して情報が上がってこなくなり、かえって経営判断の質が下がってしまう逆効果が生じることもあります。
整備と運用のギャップが審査で最も指摘される
上場準備における内部統制の審査で最も多い指摘は、規程やマニュアルは整備されているのに、実際の運用がそれに沿っていないという整備と運用のギャップです。理由は、監査法人や証券会社は書類の存在確認だけでなく、実際の証憑や承認記録をサンプリングして運用実態を確認するためです。私が支援した企業でも、稟議規程は立派に整っているのに、実際の承認は口頭で済ませていたことが発覚し、審査直前に運用ルールの見直しに追われたケースがありました。
プロジェクト型ビジネス特有の内部統制の勘所
プロジェクト型ビジネスにおける内部統制で特に重要なのは、案件ごとの予算承認プロセスと、原価計上のタイミングを統制することです。理由は、プロジェクト単位で見積・受注・原価が発生するビジネスモデルでは、案件をまたいだ費用の付け替えや、進捗に対して不自然な原価計上が起こりやすく、それが会計上の不正リスクに直結するためです。案件ごとの予算と実績をリアルタイムで管理できる仕組みがあれば、こうした異常値を早期に検知でき、内部統制の実効性を大きく高めることができます。
3点セット文書化を「作業」で終わらせない工夫
業務記述書・フローチャート・リスクコントロールマトリクスのいわゆる3点セットは、上場準備の定番作業ですが、これを外部コンサルタントに丸投げして作らせるだけでは実効性のある内部統制にはなりません。理由は、現場の実態と乖離した書類は運用段階で必ずほころびが出るためです。現場担当者自身が文書化のプロセスに関わり、自分たちの業務のリスクを言語化する経験を積むことで、統制が「やらされるもの」から「自分たちを守るもの」へと意識が変わっていきます。
ホリプロ時代に見た「開示のスピード」と統制の関係
ホリプロで経営企画責任者として開示業務やグループ経営管理に携わっていた際、子会社の数字が本社に届くスピードと正確性が、そのままグループ全体の内部統制の実力を映し出すことを実感しました。統制がしっかりしている子会社ほど月次の締めが早く、逆に統制が緩い子会社ほど数字の確認に時間がかかり、開示全体のスケジュールを圧迫します。内部統制は本社だけの話ではなく、グループ全体の情報の流れを設計する仕事なのだと、当時の経験から強く学びました。
内部統制の運用実績はどれくらいの期間必要か
上場審査では、内部統制が「机上の仕組み」ではなく実際に機能していることを示すため、一定期間の運用実績が求められます。理由は、直前に慌てて整備した統制では、審査期間中に不備が発生するリスクが高く、審査側もその実効性を信頼できないためです。目安として、審査申請の1〜2期前には主要な統制プロセスを稼働させ、実際に発見された不備とその是正履歴まで示せる状態にしておくことが望まれます。早期着手が結果的に審査期間の短縮にもつながります。
まとめ
上場準備における内部統制とは、分厚い書類を積み上げる作業ではなく、日々の業務の中に正しさを組み込んでいく地道な取り組みです。形だけ整えた統制は審査の過程で必ず綻びを見せますが、現場に根づいた統制は会社の資産として上場後も生き続けます。内部統制は、審査のために取り繕うものではなく、会社が長く健全に成長するために育てるものだと、私は考えています。