プロジェクト別採算が実現しない5つの要因とは?儲かっているはずなのに現金が残らない本当の理由
なぜ「プロジェクト別採算」が経営の生命線なのか
工業社会のように、決まった製品を決まった工程で大量に作る事業であれば、原価は比較的シンプルに把握できます。しかし建設、システム開発、コンサルティング、映像制作といったプロジェクト型ビジネスでは、案件ごとに人も時間も外注先も異なり、同じ「1件」という数え方をしていても、中身の採算は大きく違います。 会社全体の損益計算書がいくら黒字であっても、実はその黒字を稼いでいるのは一部のプロジェクトだけで、残りは赤字を垂れ流している——このようなケースは、プロジェクト型ビジネスの現場では珍しくありません。プロジェクト別採算とは、この「どの案件が会社を支え、どの案件が会社を蝕んでいるか」を明らかにする、経営の生命線ともいえる仕組みです。
要因① 原価を「勘定科目」でしか捉えていない
多くの会社の会計は、外注費・人件費・経費といった勘定科目単位で集計されています。これは税務・財務会計としては正しい処理ですが、そのままでは「どのプロジェクトにいくらかかったか」はわかりません。 なぜなら、勘定科目は「何に使ったお金か」を分類する軸であり、「どの案件のために使ったお金か」を分類する軸ではないからです。例えば外注費が月に500万円計上されていても、それが3つの案件にどう配分されているかは、勘定科目を見るだけでは追えません。 この結果、決算書を見れば会社全体の利益はわかっても、A案件は黒字、B案件は大赤字という内訳は誰にもわからない、という状態が生まれます。プロジェクト別採算を実現する第一歩は、原価をプロジェクトコードという「もう一つの軸」で管理し直すことです。
要因② 実行予算と実績の比較サイクルが遅すぎる
プロジェクト別採算が機能している会社は、必ず案件ごとの「実行予算」を持ち、実績と月次、あるいは週次で突き合わせています。一方、多くの会社では実行予算を作ったきり、実績との比較は案件が完了した後、つまり「もう手遅れになったタイミング」でしか行われません。 理由は単純で、比較のための実績集計に時間がかかりすぎるからです。日報や外注先からの請求書が締まるまで数週間かかり、集計してエクセルに転記する頃には、次の意思決定のタイミングをとうに過ぎています。 赤字プロジェクトの多くは、実は途中の段階で兆候が出ています。比較サイクルを月次から週次、週次から日次に近づけるほど、赤字を「事後報告」ではなく「早期の軌道修正」に変えることができます。
要因③ 間接費・非原価項目の配賦基準があいまい
現場の直接費だけを見ていると採算が良く見えても、本社の管理部門コストや、共通で使う設備・システムの費用を配賦した瞬間に、実は赤字だったというケースは頻繁にあります。 これは、間接費をどのプロジェクトにどれだけ負担させるかという配賦基準が、そもそも設計されていない、あるいは設計されていても現場の実態と乖離しているために起こります。さらに、原価として扱うべきではない「非原価項目」(例えば臨時的な特別損失など)が原価に紛れ込んでしまうと、案件本来の実力がさらに見えにくくなります。 自社にとって合理的な配賦基準を一度決め、非原価項目を明確に切り分けるだけで、プロジェクトごとの「本当の姿」はかなりクリアになります。
要因④ 人件費(工数)がプロジェクトに紐づいていない
プロジェクト型ビジネスの原価で最も大きな比重を占めるのは、多くの場合、人件費です。にもかかわらず、誰が・どのプロジェクトに・何時間関わったかという工数データを正確に記録できている会社は、実はそれほど多くありません。 タイムシートの入力が形骸化していたり、複数案件を掛け持ちするメンバーの時間配分が「なんとなく」の感覚値だったりすると、人件費という最大のコスト項目がプロジェクトごとに正しく配分されず、採算そのものが絵に描いた餅になってしまいます。 工数管理は面倒に思われがちですが、プロジェクト別採算を実現するための土台そのものです。
要因⑤ 原価計算が「経理のための作業」で終わっている
最後の要因は、仕組み以前の問題です。せっかく原価計算の仕組みを作っても、その結果が月次の経営会議やプロジェクトマネージャーの意思決定に使われず、経理部門の中で完結してしまっているケースが少なくありません。 原価計算は、正確に集計すること自体がゴールではありません。集計した数字を見て、現場が「次の一手」を変えることこそが本来の目的です。数字が現場に届かない仕組みは、どれだけ精緻であっても経営には機能しません。
200社の現場で見えてきた、採算が見えない会社の共通点
私自身のキャリアの原点は、1991年に新卒で入社した不動産デベロッパーの財務部でした。入社2年後に会社が民事再生を経験し、数字が合わない中でどうキャッシュフローと向き合うかを、身をもって学びました。その後エンプレックス(現SCSK)でCFOとしてプロジェクトバジェット・マネジメントシステム「eMplex PBM」の原型を作り、ホリプロでグループ経営管理に携わり、独立後は200社を超えるプロジェクト型ビジネスの経営管理を支援してきました。 この過程で繰り返し目にしてきたのは、「儲かっているはずなのに現金がない」「進行中の案件がどれだけ利益を生んでいるかわからない」という、業種を超えて共通する悩みです。そして、採算が見えない会社にはほぼ例外なく、ここまで挙げた5つの要因のいずれか、あるいは複数が当てはまります。逆に言えば、採算が見えている会社は、特別なことをしているわけではなく、この5つの要因を一つずつ地道に潰しているだけなのです。
プロジェクト別採算を「実現している」会社がやっている3つのこと
1. 案件ごとに必ず実行予算を作る——受注が決まった時点で、簡易でもよいので実行予算を立てる文化があります。 2. 工数をプロジェクトコードに紐づけて記録する——タイムシートの入力を、経理処理ではなく「自分の仕事を守るための記録」として位置づけています。 3. 月次で採算をレビューする「場」を持つ——数字を見るだけでなく、赤字案件・黒字案件それぞれについて「なぜそうなったか」を議論する会議体があります。
よくある失敗パターン——エクセル管理の限界
多くの会社が最初に採算管理を試みる手段はエクセルです。案件数が少ないうちは機能しますが、案件数が増え、関わる人数が増えるにつれて、ファイルのバージョンが乱立し、誰かの入力ミスに気づかないまま集計が進み、月次の締めに数日から数週間かかるようになります。 エクセルそのものが悪いのではなく、「手作業による集計」という構造が、案件数の増加にスケールしないことが本質的な問題です。プロジェクト別採算の実現を本気で目指すのであれば、どこかのタイミングで、集計を仕組み化・システム化する意思決定が必要になります。
今日からできる3つの行動
まずは1つのプロジェクトだけでよいので、実行予算と実績を突き合わせてみる。 工数の記録ルールを、A4一枚にまとめられる程度までシンプルに整理する。 月次でも構わないので、採算数字を「見る場」を経営会議の中に作る。 完璧な仕組みを一度に作ろうとする必要はありません。小さく始めて、見える範囲を少しずつ広げていくことが、結果的に一番早い近道です。
まとめ
プロジェクト別採算が実現しない理由は、現場の努力不足ではなく、原価を捉える軸・比較のスピード・配賦の基準・工数の記録・そして数字を使う仕組みという、5つの構造的な要因にあります。 プロジェクト別採算は、決算のときに集計するものではなく、日々の仕事の中で設計し、育てていくものです。この視点を持てるかどうかが、「忙しいのに儲からない会社」と「忙しさがそのまま利益につながる会社」を分けています。 私たちが提供するプロジェクトバジェット・マネジメントシステム「eMplex PBM」は、まさにこの5つの要因——実行予算、実績集計のスピード、配賦、工数管理、経営への活用——を一つの仕組みでつなぐために設計しています。自社の採算がどこで見えなくなっているのか、まずは棚卸しをしてみることから始めてみてください。