タイムシート

稼働率と生産性を同時に上げる工数管理術

工数管理を「面倒な事務作業」だと思っていませんか。正しく設計して運用すれば、工数は稼働率と生産性という二つの収益指標を同時に引き上げる経営データの宝庫になります。日次タイムシートの運用、労務費原価への連携、非稼働時間とアサインの見直し、人時粗利による改善、現場への定着策までを、実務の視点から徹底解説します。

結論:工数管理は「事務作業」ではなく、稼働率と生産性を同時に上げる「経営データの宝庫」です

最初に結論を申し上げます。工数管理は、現場に負担をかけるだけの面倒な事務作業ではありません。正しく設計し、正しく運用すれば、稼働率と生産性という、プロジェクト型ビジネスの収益を左右する二つの指標を同時に引き上げるための、最も重要な経営データになります。

システム開発、コンサルティング、設計事務所、映像制作、広告制作、建設の施工管理。こうしたプロジェクト型ビジネスでは、売上を生み出しているのは人の時間です。そして、原価の大部分も人の時間です。つまり、会社の利益は、「社員の時間をどれだけ売上につながる仕事に振り向けられているか」と「その時間からどれだけの付加価値を生み出せているか」という二つの掛け算で決まります。前者が稼働率であり、後者が生産性です。そして、この二つを測るための唯一の元データが、工数、つまり誰が、いつ、どの仕事に、どれだけの時間を使ったのかという記録なのです。

ところが、多くの会社で工数管理は形骸化しています。月末にまとめて記憶を頼りに入力する。案件名だけをざっくり記録する。入力されたデータは集計されるものの、経営判断にはほとんど使われない。現場から見れば、工数入力は「管理部門に言われて仕方なくやる作業」になっており、経営から見れば、工数データは「精度が低くて使えない数字」になっている。この悪循環が、工数管理を事務作業の地位に押しとどめています。

私自身のキャリアを振り返っても、工数という数字の重みを感じた場面は数多くありました。新卒で入社した朋友建設では、現場は懸命に働いているのに、どの工事にどれだけの人の時間が使われ、それがどれだけの利益を生んでいるのかが、経営からは見えていませんでした。その会社が和議に至る過程を内側から経験したことは、私の原点になっています。ホリプロで経営企画を担当していた頃には、制作に関わる人の時間を作品ごとに把握することの難しさと大切さを学びました。業種は違っても、人の時間が価値の源泉である事業では、その時間の使われ方を記録し、分析することが、経営の土台になるのです。

私はプロジェクト管理会計の専門家として、これまで200社を超えるプロジェクト型企業の経営管理の仕組みづくりを支援してきました。その経験から断言できるのは、利益を安定して出し続けている会社は、例外なく工数のデータを経営に使っているということです。案件の見積も、要員の配置も、採用の判断も、価格の設定も、工数のデータに裏付けられている。逆に、赤字案件が繰り返し発生している会社では、工数のデータがないか、あっても使われていません。

稼働率と生産性は、しばしばトレードオフの関係にあると考えられています。稼働率を上げようとすれば、とにかく手を動かすことが優先され、仕事の質や効率が落ちる。生産性を上げようとすれば、じっくり考える時間が必要になり、稼働率は下がる。しかし、私の考えは違います。工数を正しく記録し、その中身を分析すれば、稼働率を下げている無駄な時間と、生産性を下げている非効率な仕事の進め方の両方が見えてきます。その両方に手を打てば、稼働率と生産性は同時に上げることができるのです。

本稿では、工数管理が形骸化する典型的なパターンを整理したうえで、日次タイムシートによる精度の高い記録、労務費原価への連携、稼働率と生産性それぞれの改善の方法、そして現場に定着させるための組織づくりまでを、実務の視点から具体的にお伝えします。工数管理を「やらされる作業」から「使われるデータ」へと変えるための道筋を、一緒に考えていきましょう。

なお、本稿は2026年9月に公開した同じテーマのコラムを、大幅に加筆したものです。初版では日次タイムシート運用の要点をお伝えしましたが、今回は稼働率と生産性の定義や計算の方法、改善の具体的な手順、事例や数値例を加え、経営者や管理部門の方が自社の工数管理を見直す際に使えるよう、内容を大きく掘り下げています。

工数管理がうまく回り始めた会社では、経営会議の議論の質が明らかに変わります。「今月は忙しかった」「あの案件は大変だった」という感覚的な報告が、「請求稼働率は前月比で三ポイント改善したが、人時粗利は二つの案件の工数超過で低下した」という、事実に基づく報告に変わります。事実に基づく報告があって初めて、どこに手を打つべきかを経営陣と現場が同じ認識で議論できるようになるのです。

最後に、本稿でいう「工数管理」の範囲をはっきりさせておきます。ここで扱うのは、社員の労働時間を管理する勤怠管理ではなく、その時間がどの案件のどの仕事に使われたのかを記録し、原価や採算の分析に使う管理のことです。勤怠管理が「どれだけ働いたか」を問うのに対し、工数管理は「その時間を何に使い、何を生み出したか」を問います。この違いを意識していただくことが、本稿を読み進めていただくうえでの前提になります。

稼働率と生産性、それぞれの正しい見方

工数管理の話に入る前に、稼働率と生産性という二つの指標を、正しく定義しておきたいと思います。言葉は広く使われていますが、会社によって意味するところがまちまちで、それが議論の混乱を招いていることが少なくないからです。

稼働率は、「就業時間のうち、どれだけの時間がプロジェクト、つまり売上につながる仕事に投下されているか」を示す指標です。計算式で表せば、プロジェクト工数を総就業時間で割ったものになります。たとえば、ある社員の月の就業時間が百六十時間で、そのうち顧客の案件に使った時間が百二十時間であれば、稼働率は七十五パーセントです。残りの四十時間は、社内会議、提案活動、教育研修、管理業務、そして案件の合間の待機時間などに使われています。

ここで注意したいのは、稼働率の分子に何を含めるかです。顧客に請求できる時間だけを数えるのか、受注前の提案活動も含めるのか、社内の開発プロジェクトはどう扱うのか。この定義が曖昧なまま稼働率を議論しても、意味のある比較はできません。私は、分子を「請求可能な案件に投下した時間」に限定した「請求稼働率」と、提案活動や社内プロジェクトまで含めた「広義の稼働率」の二つを分けて見ることをお勧めしています。

一方、生産性は、「投下した工数に対して、どれだけの成果や収益が生まれたか」を示す指標です。プロジェクト型ビジネスの経営管理では、成果を金額で測るのが実務的です。私が最も重視しているのは、「一時間あたりの粗利」、いわゆる人時粗利です。案件の売上から外注費などの直接費を差し引いた粗利を、その案件に投下した工数で割ったものです。たとえば、売上一千万円、外注費二百万円の案件に、社員が合計で八百時間を投下したとすれば、一時間あたりの粗利は一万円になります。

この二つの指標の関係を理解するうえで役立つのが、四つの象限で考える方法です。稼働率が高く生産性も高い状態は、理想的な状態です。稼働率は高いが生産性が低い状態は、「忙しいのに儲からない」状態であり、見積の甘さや手戻りの多さ、低単価の案件への偏りが疑われます。稼働率は低いが生産性が高い状態は、仕事の質は高いものの、受注や要員の配置に課題がある状態です。そして、稼働率も生産性も低い状態は、最も改善が急がれる状態です。

稼働率だけを追いかけると、「とにかく手を動かしている人」が評価されがちです。効率よく仕事を終わらせた人よりも、時間をかけて同じ仕事をした人の方が稼働率は高くなるからです。これは明らかな歪みです。生産性の視点を組み合わせることで、この歪みを補正できます。逆に、生産性だけを見ていると、少数の高単価の案件に人が集中し、他の社員の稼働が空いている状態を見逃してしまいます。二つの指標は、必ずセットで見る必要があるのです。

そして、この二つの指標をどちらも正確に測るためには、工数のデータが欠かせません。稼働率の分子も、生産性の分母も、工数そのものだからです。工数の記録の精度が低ければ、どちらの指標も信頼できない数字になってしまいます。工数管理が、稼働率と生産性の改善の出発点であるというのは、こういう意味なのです。

目安となる水準についても触れておきます。業種や職種によって大きく異なりますが、私の支援先では、システム開発やコンサルティングの現場の担当者で請求稼働率七十五パーセントから八十五パーセント程度、管理職を兼ねる人ではもう少し低い水準を目標にしているケースが多く見られます。九十パーセントを超える状態が続く場合は、むしろ注意が必要です。教育や改善のための時間が取れていない、あるいは長時間労働で稼働率を支えている可能性があるからです。

稼働率と生産性を掛け合わせると、社員一人あたりが生み出す粗利が求められます。たとえば、月の就業時間が百六十時間、請求稼働率が七十五パーセント、人時粗利が一万円の社員であれば、一か月に生み出す粗利は百二十万円です。稼働率を八十パーセントに上げれば粗利は百二十八万円に、人時粗利を一万一千円に上げれば百三十二万円に、両方を同時に改善すれば百四十万八千円になります。一人あたりでは小さな差に見えても、社員が百人いれば、年間で二億円を超える粗利の差になります。稼働率と生産性を同時に上げることの経営的な意味は、この掛け算の構造にあるのです。

なお、ここでいう生産性は、個人の能力だけで決まるものではありません。案件の価格、契約の範囲、チームの体制、仕事の進め方といった、組織の仕組みの影響を大きく受けます。同じ人でも、担当する案件によって人時粗利は大きく変わります。だからこそ、生産性の指標は、個人を評価するためよりも、案件や組織の仕組みを改善するために使うべきだと私は考えています。

稼働率と生産性を見る単位にも注意が必要です。会社全体、部門、チーム、個人、案件、顧客。どの単位で見るかによって、見えてくる課題は異なります。会社全体の稼働率が適正でも、特定の部門だけが極端に低いことがあります。個人の稼働率が高くても、その人が担当している案件の人時粗利が低ければ、会社への貢献は見かけほど大きくありません。一つの単位だけで判断せず、複数の単位を行き来しながら見ることで、本当の課題にたどり着くことができます。

稼働率と生産性の数字を経営会議で扱う際には、推移で見ることも大切です。単月の数字は、案件の端境期や長期休暇の影響で大きく動きます。三か月や六か月の移動平均で推移を見れば、一時的な変動と構造的な変化を見分けやすくなります。

工数管理が形骸化する典型的なパターン

多くの企業で、工数管理は形骸化しています。私が支援先で目にする典型的なパターンは、次の五つです。

一つ目は、「月末にまとめて入力する」パターンです。日々の業務に追われる中で、工数の入力は後回しにされ、月末の締め切り直前に一か月分をまとめて入力する。当然、三週間前に何の作業をどれだけしたかを正確に覚えている人はいません。結果として、入力される工数は記憶と推測に基づいたものになり、「だいたいこの案件に半分、あの案件に半分」といった大まかな配分になりがちです。このデータは、事後報告としての意味しか持たず、経営判断に使えるレベルの精度はありません。

二つ目は、「案件名だけをざっくり記録する」パターンです。どの案件に何時間を使ったかは記録されていても、その中でどの工程やどの作業に時間がかかったのかは分かりません。これでは、案件が予定より工数を超過したときに、その原因がどこにあったのかを振り返ることができません。次の案件の見積に活かすこともできません。

三つ目は、「勤怠と工数が別々に管理されている」パターンです。勤怠システムには出退勤の時刻が記録され、工数は別のエクセルや別のシステムに入力される。両者の合計が一致しているかどうかは、誰も確認していません。工数の合計が勤怠の時間を大きく下回っていれば、記録されていない時間がどこかにあることになり、逆に上回っていれば、どちらかの記録が実態を反映していないことになります。

四つ目は、「入力されたデータが使われていない」パターンです。管理部門が工数を集計し、報告書を作っても、それが経営会議や案件の振り返りで議論されることはない。現場の社員から見れば、自分が毎月入力しているデータが何に使われているのか分からない。この状態が続けば、入力の意欲は下がり、精度はさらに落ちていきます。

五つ目は、「評価に使われることへの不安から、実態と違う数字が入力される」パターンです。稼働率が低いと評価が下がると考えれば、社員は実際よりも多くの時間を案件に使ったかのように入力するかもしれません。案件の予算工数を超えると叱られると考えれば、超過した分を別の案件や社内業務に付け替えるかもしれません。こうした操作が行われると、工数のデータは実態からかけ離れ、経営判断を誤らせる原因になります。

これらのパターンに共通しているのは、工数管理が「管理側のための作業」になっていることです。現場にとっての意味がなく、経営にとっても使えるデータになっていない。「工数管理=面倒な事務作業」という印象が定着してしまっている組織ほど、まずこの前提から見直す必要があります。工数管理の価値を引き出すには、入力の粒度とタイミング、データの使い方、そして評価との関係を、根本から見直さなければならないのです。

私がエンプレックスでCFOを務めていた頃も、最初は同じ課題に直面しました。工数の入力率が低く、入力された数字も月末の推測に頼ったものが多かったため、案件別の原価の数字を経営会議に出しても、「この数字は本当に正しいのか」という疑問が常につきまといました。工数管理の仕組みを見直し、日次の入力と原価への連携を整えたことで、ようやく案件別の採算を根拠のある数字で議論できるようになったのです。

形骸化した工数管理がもたらす最大の損失は、赤字案件の発見の遅れです。工数の記録が月末のまとめ入力であれば、案件の工数超過に気づくのは、早くても翌月の初めです。記録の精度が低ければ、そもそも超過に気づかないこともあります。案件が完了し、決算の段階で初めて赤字が判明する。これでは、顧客との追加費用の交渉も、要員の見直しも、すべて手遅れです。形骸化した工数管理は、会社から「早く気づいて手を打つ時間」を奪っているのです。

自社の工数管理が形骸化していないかを確かめる、簡単な方法があります。直近の月について、工数の入力が完了した日付と、勤怠の時間と工数の合計の差を確認してみてください。入力の多くが月末の数日間に集中していたり、勤怠と工数の差が一割を超えていたりすれば、工数のデータは経営判断に使える精度に達していない可能性が高いと考えられます。

さらに、形骸化した工数管理は、見積の精度が上がらない原因にもなります。過去の案件の実績工数が正確に記録されていなければ、次の案件の見積は、担当者の経験と勘に頼るしかありません。経験豊富な担当者が見積をしているうちはまだ良いのですが、その担当者が異動や退職をすれば、見積の精度は一気に落ちます。正確な工数の記録は、会社の見積の力を、個人の経験から組織の資産へと変えるための基盤でもあるのです。

これらのパターンは、会社の成長とともに表面化することが多いものです。社員が十数人のうちは、社長やリーダーが全員の仕事の状況を把握しており、工数の記録が多少粗くても、経営の判断に大きな支障はありません。しかし、社員が数十人、百人と増え、同時に進む案件の数が増えるにつれて、誰がどの案件にどれだけの時間を使っているのかを、感覚で把握することはできなくなります。工数管理の見直しは、会社が次の成長の段階に進むための準備でもあるのです。

日次タイムシートがもたらす精度の違い

工数管理の形骸化から抜け出すための第一歩は、工数を日次で記録する運用に切り替えることです。月末のまとめ入力から日次入力に変えるだけで、工数データの精度は大きく向上します。

理由は単純です。記憶が新しいうちに入力するからです。今日一日の仕事を振り返り、どの案件のどの作業に何時間を使ったかを記録するのは、それほど難しいことではありません。しかし、三週間前の火曜日に何をしていたかを正確に思い出すのは、ほぼ不可能です。人の記憶は時間とともに急速に薄れていきます。日次で記録することは、データの精度を上げる最も確実な方法なのです。

日次入力には、精度以外にも大きな利点があります。一つは、月末の集計作業そのものが不要になることです。日々の記録が積み上がっていけば、月末に改めて集計する必要はありません。いつでも、その時点までの工数の状況を確認できます。もう一つは、リアルタイムに近い形で稼働状況を把握できることです。ある案件の工数が予定を超えそうになっていれば、月末を待たずに、週の途中で気づくことができます。早く気づけば、それだけ多くの打ち手を検討できます。

日次で記録する際には、記録の粒度も重要です。案件別に加えて、タスク別、つまり工程や作業の種類別に工数を分解して記録することで、どの工程にどれだけの時間がかかっているかが可視化されます。これは、見積の精度の向上に直結します。たとえば、システム開発の案件で、設計に想定の一・五倍の時間がかかっている案件が続いているなら、次の案件では設計の見積を見直すべきだと分かります。

ただし、細かすぎる分解は、かえって入力の負担を増やします。私がお勧めしているのは、案件単位に加えて、五つから十個程度の主要な工程や作業の種類に分けることです。業種によって、適した分け方は異なります。ITサービス業であれば、要件定義、設計、開発、テスト、プロジェクト管理といった工程単位での分解が有効です。コンサルティング業であれば、調査、分析、資料作成、クライアントとの打ち合わせ、社内レビューといった業務内容ごとの分解の方が、実態を捉えやすい場合があります。映像制作であれば、企画、撮影準備、撮影、編集、納品対応といった分け方になるでしょう。自社の業務のプロセスに合わせて、記録の粒度を設計できる柔軟性が、工数管理を定着させるための重要な条件になります。

非稼働時間の分類も、同じように設計しておく必要があります。社内会議、提案・営業支援、教育研修、社内の改善活動、管理業務、待機。これらを区別して記録しておけば、後で稼働率を分析する際に、どの種類の非稼働時間が多いのかが分かります。非稼働時間を一括りに「その他」として記録している会社は多いのですが、それでは稼働率の改善の手がかりが得られません。

入力の負担を最小限にするためには、入力の画面の工夫も欠かせません。案件やタスクの選択をワンクリックで済ませられる。前日と同じ案件であれば、前日の記録を呼び出して時間だけを修正できる。スマートフォンからでも入力できる。こうした工夫によって、日次の入力は一日一分から数分程度で終わる作業になります。入力の負担が小さければ、日次の入力は自然と習慣になります。

また、入力の締めのルールも決めておきます。たとえば、「当日中に入力し、遅くとも翌営業日の午前中までに完了する」「週の終わりに上長が部下の入力状況を確認し、承認する」といったルールです。承認の仕組みがあれば、入力の漏れや明らかな誤りを早い段階で見つけることができます。

日次入力の定着には、最初の一か月の取り組みが特に重要です。私は、導入の最初の数週間は、管理部門やプロジェクトマネージャーが毎日入力の状況を確認し、未入力の人には当日中に声をかけることをお勧めしています。最初の数週間で日次の入力が習慣になれば、その後は大きな手間をかけなくても運用が続きます。逆に、最初の段階で入力の遅れを放置すると、「月末にまとめて入力してもよい」という空気が生まれ、元の運用に戻ってしまいます。

日次の記録は、社員自身の仕事の振り返りにも役立ちます。一日の終わりに、自分がどの仕事にどれだけの時間を使ったかを記録することは、自分の時間の使い方を客観的に見直す機会になります。「思っていた以上に会議に時間を取られている」「この作業に想定の倍の時間がかかっている」といった気づきは、社員一人ひとりの働き方の改善につながります。工数の記録は、会社のためだけでなく、社員自身のための道具でもあるのです。

入力の方法についても、いくつか選択肢があります。一日の終わりにまとめて記録する方法、作業を切り替えるたびに記録する方法、タイマーのように作業の開始と終了を記録する方法。どの方法が適しているかは、業務の性格によって異なります。一日に何度も作業が切り替わる職種では、切り替えのたびに記録する方がかえって正確で楽な場合もあります。一つの方法を全社に押しつけるのではなく、職種ごとに現場の声を聞きながら、無理のない方法を選べるようにしておくことが、定着への近道です。

入力された工数の品質を保つためには、定期的な点検も欠かせません。月に一度、勤怠の時間と工数の合計の差、入力が遅れている人の割合、「その他」の区分に入力された時間の割合などを確認します。「その他」の割合が大きい場合は、作業の区分が実態に合っていない可能性があります。こうした点検の結果をもとに区分や運用を見直していくことで、工数のデータは使うほどに精度が上がっていきます。

工数データを労務費原価に連携させる意義

日次で記録した工数データは、案件別の労務費原価の計算にそのまま連携させてこそ、その価値を最大限に発揮します。誰がどの案件にどれだけの時間を使ったかが原価に反映されれば、プロジェクトの粗利の着地の見通しの精度は大きく向上します。

プロジェクト型ビジネスの原価の大部分は、社員の人件費です。この人件費を案件に配賦するための根拠は、工数しかありません。一般的には、社員ごと、あるいは職位や職種ごとに「時間単価」を設定し、それに工数を掛けることで、案件ごとの労務費を計算します。時間単価は、給与や賞与、法定福利費などの人件費の総額を、年間の総就業時間で割って求めるのが基本です。

具体的な数字で考えてみましょう。ある案件の受注金額が一千二百万円、外注費が二百万円だったとします。この案件に、時間単価五千円の社員が合計で一千二百時間、時間単価七千円のリーダーが三百時間を投下しました。労務費は、六百万円に二百十万円を加えた八百十万円です。外注費と合わせた原価は一千十万円となり、粗利は百九十万円、粗利率は約十六パーセントになります。見積の段階で、社員の工数を九百時間、リーダーの工数を二百時間と想定していたなら、想定の労務費は五百九十万円であり、想定の粗利率は約三十四パーセントでした。工数の超過によって、粗利率は半分以下に落ち込んだことになります。

この例が示しているように、工数と原価が連携していれば、「工数はかかっているのに売上が伴っていない案件」を数字で発見できます。そして、日次で工数が記録されていれば、それを案件の途中で発見できます。案件が完了してから赤字に気づくのと、進行中に工数の超過に気づくのとでは、打てる手がまったく違います。進行中であれば、顧客と追加費用について交渉する、要員の配置を見直す、作業の範囲を再確認する、といった手を打つことができます。

工数と原価を連携させることで、見積の工数と実際の工数の乖離も、定量的に検証できるようになります。案件が完了するたびに、工程ごとの見積工数と実績工数を比べ、その差を記録していきます。これを続けると、「当社はテストの工程を常に過小に見積もっている」「特定の種類の案件では、要件定義に想定の倍の時間がかかる」といった、見積の癖が数字で見えてきます。この知見を次の見積に反映させることで、見積の精度は着実に上がっていきます。

工数管理を、単なる勤怠管理の延長ではなく、原価管理の入口として位置づけること。これが、生産性の向上の第一歩です。勤怠管理は「社員がどれだけ働いたか」を記録するものですが、原価管理のための工数管理は「その時間がどの仕事に使われ、どれだけの価値を生んだか」を記録するものです。目的が違えば、記録すべき内容も、データの使い方も違ってきます。

一方で、勤怠と工数の整合性を確認することも忘れてはいけません。勤怠上の労働時間と、工数の合計が大きくずれている場合は、どちらかの記録が実態を反映していない可能性があります。長時間労働が工数の記録に表れていない、いわゆるサービス残業の温床になっていないか。逆に、工数の記録が勤怠の時間を超えていないか。この確認は、原価計算の精度を守るためだけでなく、適正な労務管理のためにも欠かせません。上場を目指す企業にとっては、審査で必ず確認される論点でもあります。

時間単価の設定についても、一つ補足しておきます。社員一人ひとりの実際の給与をもとに時間単価を計算する方法は正確ですが、個人の給与が案件の原価から推測できてしまうという問題があります。そのため、職位や職種ごとに標準の時間単価を設定し、期末に実際の人件費との差額を調整する方法をとる会社も多くあります。自社の規模や組織の文化に合わせて、方法を選んでください。

工数と原価の連携が実現すると、経営陣は案件の採算を、月次の決算を待たずに把握できるようになります。進行中の全案件について、予算工数に対する実績工数の消化率と、作業の進捗率を並べて見れば、工数の消化が進捗に比べて早すぎる案件がすぐに分かります。消化率が進捗率を大きく上回っている案件は、このままでは工数を超過し、粗利が予算を下回る可能性が高い案件です。こうした案件を早期に洗い出し、プロジェクトマネージャーと対策を協議する。これが、工数と原価の連携がもたらす最大の価値です。

原価への連携にあたっては、間接部門の人件費の扱いも決めておく必要があります。経理や総務、人事といった間接部門の人件費は、特定の案件には紐づきません。これらの費用を案件に配賦するのか、販売費及び一般管理費として扱うのかによって、案件の粗利の見え方は変わります。私は、案件の粗利は直接に投下した工数と外注費で計算し、間接部門の費用は全社の経費として別に管理することを基本にお勧めしています。案件の採算の良し悪しを、現場が自分たちで改善できる範囲の数字で判断できるようにするためです。

見積と実績の比較は、案件の完了時だけでなく、案件の途中でも行うべきです。工程ごとに予算工数を設定しておけば、設計の工程が終わった時点で、設計の実績工数と予算工数を比べられます。設計で予算を超過していれば、後の工程で取り戻せるのか、全体の見通しを修正すべきなのかを、その時点で判断できます。工程の区切りごとに見通しを更新することで、案件の最終的な粗利の見通しの精度は大きく上がります。

稼働率を上げる:非稼働時間を分析し、アサインを最適化する

工数のデータが正確に記録されるようになったら、次はそれを使って稼働率を改善します。稼働率を上げるというと、「もっと働け」と社員に求めることだと誤解されがちですが、そうではありません。稼働率の改善とは、就業時間のうち、売上につながらない時間を減らし、その時間を売上につながる仕事に振り向けることです。

最初に取り組むべきは、非稼働時間の分析です。先ほど述べたように、非稼働時間を社内会議、提案・営業支援、教育研修、管理業務、待機といった区分で記録していれば、どの区分の時間が多いのかがすぐに分かります。私の支援先で多く見られるのは、社内会議の時間が想定以上に多いケースです。定例の会議が増え続け、一人あたり週に十時間以上を会議に使っていた、という会社もありました。会議の目的と参加者を見直すだけで、稼働率が数ポイント上がることは珍しくありません。

次に注目すべきは、待機の時間です。待機とは、案件と案件の間で、アサインされる仕事がない状態の時間です。ある案件が予定より早く終わった、次の案件の開始が遅れた、顧客側の都合で作業が止まった。こうした理由で生まれる待機の時間は、会社にとって最も大きな損失の一つです。待機の時間を減らすには、要員の配置、つまりアサインの計画を、工数の見通しと連動させて管理する必要があります。

アサインの最適化で重要なのは、先の数か月の要員の需要と供給を見える化することです。受注済みの案件と、受注確度の高い見込み案件について、いつ、どのスキルの人が、どれだけの時間必要になるのかを見通します。一方で、各社員が今の案件からいつ手が離れるのかも見通します。この二つを重ね合わせれば、待機が発生しそうな時期と人、逆に人が足りなくなりそうな時期とスキルが事前に分かります。待機が見込まれる人には、提案活動や社内の改善活動、教育の予定を前もって組み込むことができますし、人が足りなくなりそうなら、協力会社の確保や採用を早めに動かすことができます。

ここで一つ、強調しておきたいことがあります。稼働率は、高ければ高いほど良いわけではありません。先ほど述べたように、請求稼働率が長期間にわたって九十パーセントを超えている状態は、危険な兆候です。教育や改善、提案のための時間が取れず、社員の成長も、会社の将来の受注も犠牲になっている可能性があります。また、高い稼働率が長時間労働によって支えられている場合、社員の疲弊や離職につながるおそれがあります。

特に注意したいのが、特定の社員への負荷の集中です。会社全体の平均稼働率は適正でも、優秀な一部の社員に案件が集中し、その人たちだけが過稼働になっているケースはよくあります。平均値だけを見ていると、この偏りを見逃してしまいます。社員ごとの稼働率の分布を見ること、そして複数の案件を同時に抱えている人の負荷を確認することが大切です。

稼働率の改善は、アサインの最適化と非稼働時間の削減によって、社員に無理をさせることなく実現するものです。工数のデータは、そのための地図の役割を果たしてくれます。

アサインの計画を立てる際には、スキルの情報も欠かせません。誰がどのような技術や業務の知識を持ち、どのような案件の経験があるのか。この情報が整理されていなければ、待機している人がいても、必要なスキルを持つ人がいないために、別の案件に振り向けることができません。工数の記録とあわせて、社員のスキルと経験の情報を管理しておくことで、アサインの選択肢は大きく広がります。また、どのスキルを持つ人が常に不足しているのかが分かれば、採用や教育の計画にも生かせます。

稼働率の改善の効果は、数字で確認できるようにしておくことが大切です。非稼働時間の区分ごとの推移、待機の時間の推移、社員ごとの稼働率の分布。これらを月次で確認し、取り組みの効果を検証します。ある設計事務所では、社内会議の見直しと、案件の端境期の計画的なアサインによって、半年で請求稼働率を六十八パーセントから七十六パーセントに引き上げました。社員一人ひとりの労働時間は増えておらず、むしろ残業時間は減っていました。稼働率の改善は、働く時間を増やすことではなく、時間の使い方を変えることで実現できるのです。

稼働率の目標を設定する際には、職位や役割に応じて異なる目標を置くことも大切です。若手の担当者、中堅のリーダー、管理職、営業を兼ねるシニアのメンバーでは、本来あるべき時間の使い方が違います。管理職に担当者と同じ稼働率を求めれば、部下の育成やチームの管理がおろそかになります。役割ごとに適正な稼働率の範囲を定め、その範囲から外れている人を確認する運用にすれば、稼働率の目標が不健全な圧力になることを防げます。

非稼働時間の中には、減らすべき時間と、むしろ確保すべき時間があることにも注意してください。目的の曖昧な会議や、重複した報告の作業は減らすべき時間です。一方で、提案活動や教育研修、社内の改善活動は、将来の受注や生産性の向上につながる、投資としての時間です。稼働率を上げることだけを目的にすると、この投資の時間まで削ってしまいかねません。非稼働時間を区分して記録するのは、減らすべき時間と守るべき時間を見分けるためでもあるのです。

生産性を上げる:一時間あたりの粗利で、案件と仕事の進め方を見直す

稼働率が「どれだけの時間を売上につながる仕事に使えているか」を示すのに対し、生産性は「その時間からどれだけの価値を生み出せているか」を示します。稼働率がいくら高くても、生産性が低ければ、会社の利益は増えません。むしろ、忙しいのに儲からないという、最も苦しい状態に陥ります。

生産性を測る物差しとして、私が最も重視しているのは、先ほど述べた一時間あたりの粗利、人時粗利です。この指標を案件ごと、顧客ごと、案件の種類ごと、チームごとに比べることで、生産性の高い仕事と低い仕事がはっきりと見えてきます。

案件ごとに人時粗利を比べると、多くの会社で、案件によって数倍の差があることに気づきます。ある受託開発会社では、人時粗利が一万円を超える案件がある一方で、三千円を下回る案件も少なくありませんでした。人時粗利の低い案件を詳しく調べると、共通点がありました。特定の顧客からの追加の要望が、契約の範囲を超えて無償で対応されていたこと。仕様が固まらないまま着手し、手戻りが繰り返されていたこと。そして、受注の段階で価格の交渉が十分に行われていなかったことです。

このように、生産性の低さの原因は、大きく三つに分けられます。一つ目は、価格の問題です。そもそも、投下する工数に見合った価格で受注できていない。二つ目は、仕事の範囲の問題です。契約の範囲を超える作業が、追加の対価なしに行われている。三つ目は、仕事の進め方の問題です。手戻りや待ち時間、非効率な作業の手順によって、必要以上の工数がかかっている。工数のデータを工程ごとに分解して記録していれば、三つのうちどれが主な原因なのかを見分けることができます。

価格の問題に対しては、見積の精度を上げることが基本です。過去の同じような案件の工程ごとの実績工数をもとに見積を作れば、根拠のある価格を顧客に提示できます。また、人時粗利の目標を決めておき、見積の段階でそれを下回る案件は、価格や範囲を見直すか、受注そのものを慎重に判断するというルールを設けることも有効です。

仕事の範囲の問題に対しては、変更の管理の仕組みが必要です。顧客から追加の要望があったときには、それが契約の範囲内なのか範囲外なのかを判断し、範囲外であれば追加の見積を提示する。この手順を徹底するには、現場のプロジェクトマネージャーが、案件の予算工数と実績工数をいつでも確認できる状態にしておくことが大切です。自分の案件の工数がどれだけ使われているかが見えていれば、無償の追加対応がどれだけ採算を圧迫しているかを、自分で判断できるからです。

仕事の進め方の問題に対しては、工程ごとの工数の分析が手がかりになります。手戻りの時間を別の作業区分として記録しておけば、どの工程で手戻りが多く発生しているのかが分かります。要件定義の不十分さが後工程の手戻りを生んでいるなら、要件定義に時間をかけることで、全体の工数はむしろ減るかもしれません。社内のレビューに時間がかかりすぎているなら、レビューの方法を見直すべきでしょう。

生産性の改善は、個人の頑張りではなく、仕事の仕組みの改善によって実現するものです。工数のデータは、その改善の手がかりを、推測ではなく事実で示してくれます。

生産性の改善で見落とされがちなのが、顧客ごとの人時粗利の違いです。案件ごとに見ると問題がなくても、顧客ごとに集計すると、特定の顧客との取引が一貫して低い人時粗利になっていることがあります。長年の付き合いがある顧客ほど、無償の対応や値引きが積み重なっている傾向があります。顧客ごとの人時粗利が見えれば、価格の交渉や、取引の条件の見直しを、根拠を持って進めることができます。取引を続けるべき顧客と、条件を見直すべき顧客を、数字で判断できるようになるのです。

標準工数を整備することも、生産性の改善に役立ちます。繰り返し発生する種類の作業について、過去の実績から標準的な工数を設定しておけば、見積の根拠になるだけでなく、実際の工数が標準を大きく上回った場合に、その原因を振り返るきっかけにもなります。標準工数は、一度決めたら終わりではなく、実績に合わせて定期的に見直していくことが大切です。

生産性を高めるうえで、知識や成果物の再利用も大きな効果を持ちます。過去の案件で作った設計書のひな形、提案書の構成、よく使うプログラムの部品。これらを組織として整理し、次の案件で使えるようにしておけば、同じ成果をより少ない工数で生み出せるようになります。工程ごとの工数のデータを見れば、どの工程で再利用の効果が大きいのかも分かります。工数のデータは、改善の効果を測る物差しにもなるのです。

チームごとの人時粗利を比べることも有益です。同じ種類の案件を担当しているのに、チームによって人時粗利に大きな差がある場合、仕事の進め方や体制に違いがあるはずです。人時粗利の高いチームのやり方を調べ、他のチームに展開することで、会社全体の生産性を引き上げることができます。工数のデータは、社内の優れたやり方を見つけ出し、広げるための手がかりにもなります。

生産性の改善に取り組む際には、改善の対象を絞り込むことも大切です。すべての案件の生産性を一度に上げようとしても、手が回りません。まずは人時粗利が最も低い案件の種類や顧客を一つか二つ選び、その原因を工程ごとの工数から特定し、対策を講じて効果を確かめる。成果が出たら、そのやり方を他の案件にも広げていく。小さな改善の成功を積み重ねることが、会社全体の生産性を底上げする確実な方法です。

定着に向けた組織づくりと、現場の懸念への答え

どれほど優れた仕組みを導入しても、現場が入力を面倒だと感じれば、工数管理は再び形骸化してしまいます。工数管理を定着させるうえで最も大切なのは、入力したデータが自分たちにどう役立っているのかを、現場が実感できるようにすることです。

そのためには、工数のデータを、現場にフィードバックする仕組みが欠かせません。工数データが一方的に管理側に吸い上げられるだけでは、現場の入力の意欲は続きません。プロジェクトマネージャーが自分の案件の予算工数と実績工数を確認できる。チームのリーダーがメンバーの負荷の状況を把握できる。社員一人ひとりが、自分の稼働の状況を振り返ることができる。工数のデータが、現場の負荷の軽減や、見積の精度の向上、公正な評価という形で還元される実感が持てれば、入力へのモチベーションは自然と高まります。

評価との関係にも、慎重な配慮が必要です。先ほど述べたように、稼働率の高さだけで社員を評価すれば、実態と違う数字が入力される原因になります。私がお勧めしているのは、工数のデータを個人の評価に直接使うのではなく、チームや案件の改善のために使うことを、経営陣がはっきりと宣言することです。そのうえで、評価においては、稼働率と生産性の両方、そして見積の精度や改善への貢献といった観点を組み合わせて判断します。正直な数字を入力したことで不利益を受けない。この安心感が、データの精度を支える土台になります。

日次入力への切り替えに対しては、現場から懸念の声が挙がるのが普通です。代表的な懸念と、それに対する私の考えをご紹介します。

一つ目は、「毎日の入力は負担になるのではないか」という懸念です。実際には、入力項目を必要最小限に絞り、案件の選択を簡略化すれば、日次の入力は一日一分から数分程度で終わります。入力にかかる時間を実際に計測して示すことが、この懸念への最も効果的な答えになります。むしろ、月末にまとめて入力する方が、記憶をたどる手間がかかり、負担が大きいという声も多く聞かれます。負担感は、多くの場合、実態以上に大きく見積もられがちです。

二つ目は、「どこまで細かく分解すべきか」という疑問です。案件単位に加えて、主要な工程単位で分解することをお勧めします。細かすぎる分解は、かえって入力の負担を増やし、データの精度を下げます。自社の業務に合った粒度を見極め、運用しながら調整していくことが重要です。

三つ目は、「監視されているようで嫌だ」という感情的な抵抗です。この抵抗には、データの目的を丁寧に説明することが欠かせません。工数管理の目的は、社員を監視することではなく、無理のない要員の配置と、適正な価格での受注を実現し、社員が報われる会社をつくることだと伝えます。そして、その言葉どおりにデータが使われていることを、実際の改善の事例で示していきます。

ここで、あるITサービス企業の事例をご紹介します。この会社では、月末にまとめて工数を入力する運用から、日次入力への切り替えを行いました。当初は現場から「毎日入力するのは面倒」という声もありましたが、案件の選択をワンクリックで済ませられる画面に変更したところ、数週間で定着しました。半年後には、案件別の工数データをもとに見積の精度が向上し、想定外の赤字案件が減少するという成果が現れています。地道な運用改善の積み重ねが、数字として表れた好例だと言えます。

定着に向けては、経営陣の関与も欠かせません。経営会議で工数のデータに基づく議論が行われ、その結果として要員の配置や案件の条件が見直される。こうした様子が現場に伝われば、工数の入力は「意味のある作業」として受け止められるようになります。逆に、経営陣が工数のデータに関心を示さなければ、現場も入力を真剣に行わなくなります。工数管理の定着は、現場の努力だけでなく、経営陣がデータを使い続ける姿勢によって支えられるのです。

フィードバックの方法としては、月に一度、チームごとに工数のデータを振り返る短い時間を設けることをお勧めします。三十分程度で構いません。チームの稼働率の推移、案件ごとの予算工数と実績工数の差、非稼働時間の内訳を確認し、翌月に改善したい点を一つか二つ決めます。データを見て話し合い、改善し、また翌月にデータで確認する。このサイクルが回り始めると、工数の入力は「報告のための作業」から「自分たちの仕事を良くするための作業」へと、意味が変わっていきます。

プロジェクトマネージャーの役割も重要です。メンバーの工数入力を週次で確認し承認するのは、単なる管理のためではありません。メンバーがどの作業に時間を取られているのか、困っていることはないのかを知る機会でもあります。工数の記録を、メンバーとの対話のきっかけとして使えるプロジェクトマネージャーのもとでは、入力の精度も、チームの生産性も高まっていきます。

新しく入社した社員への説明も、定着のための大切な要素です。入社時の研修で、工数を記録する目的、記録の方法、そしてそのデータがどのように使われているのかを丁寧に伝えます。最初から工数の記録を「仕事の一部」として受け止めてもらえれば、日次の入力は自然な習慣になります。

導入までの流れと、まとめ

最後に、日次タイムシートを導入し、稼働率と生産性の改善につなげるまでの流れを整理しておきます。

最初の段階では、入力項目を必要最小限に絞り込みます。案件名、タスクの種類、投下時間程度のシンプルな項目から始め、現場の負担を最小限に抑えることがポイントです。非稼働時間の区分もこの段階で決めておきます。

次の段階では、運用を始め、数週間単位で状況を確認します。どの程度の粒度で記録されているか、入力の抜け漏れがないか、勤怠の時間と工数の合計が一致しているか。必要に応じて、項目や運用のルールを調整します。

三つ目の段階で、工数データを労務費原価の計算に連携させます。時間単価を設定し、案件別の原価と粗利を月次で算出できるようにします。

本稿でお伝えした考え方は、業種を問わず、人の時間が価値の源泉であるすべてのプロジェクト型ビジネスに当てはまります。システム開発、コンサルティング、設計、映像や広告の制作、建設の施工管理。どの業種でも、工数を正しく記録し、原価につなげ、稼働率と生産性の両面から分析する仕組みを持つことが、安定した利益を生み出す会社への道です。

四つ目の段階で、稼働率と人時粗利を定期的に確認する場を設けます。月次の経営会議やプロジェクトの定例会で、社員ごと、案件ごとの数字を確認し、アサインの見直しや見積の改善につなげていきます。

また、工数のデータは、採用や組織の計画にも使えます。今後の受注の見通しから必要な工数を積み上げ、現在の社員の供給できる工数と比べれば、いつ、どのスキルの人が、何人足りなくなるのかが見えてきます。採用の判断を、感覚ではなく数字に基づいて行えるようになることも、工数管理がもたらす大きな価値の一つです。

導入の全体にかかる期間は、会社の規模や業務の複雑さによって異なりますが、日次入力の定着までに一か月から三か月、原価への連携と稼働率・人時粗利の定期的な確認が軌道に乗るまでに、さらに三か月から半年程度を見ておくのが現実的です。最初から完璧を目指さず、まずは日次の入力を習慣にすることに集中してください。データが蓄積されれば、それを使った分析と改善は、自然と深まっていきます。

eMplex PBMでは、非稼働時間の区分や工程ごとの分解も、自社の業務に合わせて設定できます。社員ごとの稼働率、案件ごとの人時粗利、予算工数に対する消化率と進捗率の比較といった、本稿でご紹介した分析は、日々記録される工数から自動的に集計されます。管理部門が月末に集計表を作る必要はなく、経営会議でもプロジェクトの定例会でも、同じ最新のデータを見ながら議論することができます。

そして五つ目の段階で、完了した案件の見積工数と実績工数を振り返り、その結果を次の見積に反映させる仕組みを回し始めます。

焦らず、段階を踏んで進めることが、結果的に最短で定着させる道になります。

私たちが提供している「eMplex PBM」の日次タイムシート機能は、案件やタスクの選択をワンクリックで完結できるシンプルな画面を採用しており、現場の入力の負担を最小限に抑えながら、精度の高い工数の記録を実現します。記録された工数は、案件別の労務費原価の計算にリアルタイムで反映される設計になっているため、工数管理と原価管理を別々のシステムで二重に管理する手間もなくなります。プロジェクトマネージャーは自分の案件の予算と実績を、経営陣は全社の稼働率と案件別の粗利を、同じデータから確認できます。

工数管理は、日次での記録、案件・タスク単位への分解、そして原価計算への連携という三つの工夫によって、単なる事務作業から経営データへと生まれ変わります。そして、そのデータを使って非稼働時間とアサインを見直せば稼働率が上がり、人時粗利で案件と仕事の進め方を見直せば生産性が上がります。稼働率と生産性は、トレードオフではありません。正しい工数のデータがあれば、両方を同時に高めることができるのです。

工数の記録は、一日一分の小さな積み重ねです。しかし、その積み重ねが、見積の精度を上げ、赤字案件を減らし、社員の負荷を平準化し、会社の利益を確実に押し上げていきます。まずは明日から、今日の仕事を今日のうちに記録するところから始めてみてください。それが、稼働率と生産性を同時に高める経営への、確かな第一歩になります。

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eMplex PBM の機能

タイムシート/稼働分析

本コラムのテーマを日々の運用で実現するには、eMplex PBM の「タイムシート/稼働分析」が役立ちます。工数を日次で記録し、稼働率・生産性を自動集計。案件別の労務費原価にリアルタイムで反映され、粗利着地の精度が上がります。

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プロジェクト管理会計研修

中級(第1回)フォーキャストと赤字プロジェクトの撲滅

本コラムに関連するテーマは、プロジェクト管理会計研修で演習を交えて体系的に学べます。

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