FP&A・経営管理

ローリングフォーキャストの実務運用―四半期予算を手放せない会社が陥る罠

年度予算を絶対視し、期中の見通し更新を「言い訳作り」だと捉えていませんか。ローリングフォーキャストは予算を否定するものではなく、予算という仮説を実績で検証し続ける仕組みです。四半期予算に縛られた会社が陥る罠と、プロジェクト型ビジネスで無理なく定着させる運用の型を、CFO経験と200社超の支援実務から解説します。

結論:ローリングフォーキャストは予算の「代わり」ではなく「検証装置」です

ローリングフォーキャストと聞くと、年度予算をやめて毎月ゼロから見通しを作り直す手法だと誤解されることがあります。「予算を廃止して見通しだけで経営する」という、いわゆる脱予算経営の議論と混同されることも少なくありません。しかし、私が実務でお勧めしているローリングフォーキャストの本質は、それとは異なります。年度予算という当初の仮説を、月次や四半期で更新される最新の実績と突き合わせながら、継続的に検証していく仕組みです。

予算を廃止するのではなく、予算の「有効期限」を実質的に短くし、常に鮮度の高い着地見通しを経営会議に届けること。これが目的です。年度予算は、期首時点で経営陣が「こうありたい」「こうなるはずだ」と考えた計画であり、組織の目標としての役割を持ち続けます。一方で、ローリングフォーキャストは「今の実績と受注状況から見て、実際にはどこに着地しそうか」を示す予測です。目標と予測を別々に持ち、その差を経営陣が毎月直視する。この差こそが、打ち手を考えるための最も重要な情報になります。

ローリングという言葉には「転がす」という意味があります。たとえば常に先の12か月、あるいは先の4四半期を見通しの対象とし、1か月、1四半期が経過するたびに、その分だけ先の期間を新たに見通しに加えていきます。こうすることで、期末が近づくにつれて見通しの範囲が短くなっていくという年度予算の弱点を補い、常に同じ長さの未来を見ながら経営できるようになります。

ここで一つ、よくある誤解を解いておきます。ローリングフォーキャストは、大企業のFP&A部門のような専門組織がなければ運用できない高度な手法だと思われがちです。しかし実際には、社員数が数十名から数百名規模のプロジェクト型企業こそ、その効果を実感しやすい手法です。事業の数字が少数の案件の動きに大きく左右されるため、案件単位の見通しを更新するだけで、全社の見通しの精度が大きく変わるからです。専門の部署がなくても、仕組みと役割分担さえ決まっていれば、十分に運用できます。

なお、本稿では「四半期予算」という言葉を、四半期ごとに予算を組み直す運用や、四半期単位の予算達成を強く求める管理のあり方を指して使っています。四半期という区切りで業績を管理すること自体が悪いわけではありません。問題は、その区切りの中で数字を「守る」ことが目的化し、先を見通す視点が失われてしまうことにあります。

本稿では、年度予算や四半期予算を手放せない会社が陥りやすい罠を整理したうえで、プロジェクト型ビジネスでローリングフォーキャストを無理なく定着させるための運用の型を、具体的にお伝えします。

具体的なイメージを持っていただくために、簡単な例を挙げます。3月決算の会社が、期首に売上高50億円、営業利益3億円の年度予算を立てたとします。第1四半期が終わった7月の時点で、受注の状況や進行中の案件の原価を見直した結果、年間の着地見通しが売上高47億円、営業利益2億2,000万円になったとしましょう。このとき、予算の数字を書き換える必要はありません。予算は3億円のまま据え置き、見通しとの差である8,000万円を「埋めるべきギャップ」として経営会議で共有します。そして、その差をどの打ち手で、いつまでに、どれだけ埋めるのかを議論します。

翌月以降も同じことを繰り返します。8月には見通しが2億4,000万円に改善したかもしれませんし、逆に1億9,000万円に悪化したかもしれません。その変化の理由を案件単位で確認し、打ち手の効果を検証していく。予算が「最初に立てた旗」だとすれば、ローリングフォーキャストは「その旗に対して今どこにいるのかを示す現在地」です。現在地が毎月わかるからこそ、旗にたどり着くためのルートを修正し続けることができるのです。

なぜ年度予算だけでは経営判断が遅れるのか

多くの会社では、年度予算は期首に一度決めたら、期中の環境変化があっても予実差異の報告にとどまり、計画自体の更新は期末まで行われません。理由の一つは、予算策定という作業自体が重く、期中に何度もやり直す余力がないためです。各部門へのヒアリング、数字の積み上げ、経営陣との調整、取締役会での承認。これを年に何度も繰り返すことは、現実的ではないと考えられています。

しかし、プロジェクト型ビジネスでは、年度予算だけに依拠することのリスクが特に大きくなります。大型案件の受注や失注、顧客都合による着手時期の延期、仕様変更による原価の増減、協力会社の単価上昇。こうした出来事が期中に頻繁に起こり、そのたびに年間の業績見通しは大きく動きます。建設会社であれば一件の大型工事の受注時期が半年ずれるだけで、システム開発会社であれば一件の大型案件が赤字化するだけで、年間の利益計画は根底から変わってしまいます。

加えて、年度予算の数字は、期首の時点で入手できた情報をもとに作られています。期首の段階では受注が決まっていない案件も多く、特に下期の売上の大部分は、まだ見込みの段階にあるのが普通です。つまり年度予算の後半部分は、もともと不確実性の高い数字なのです。その不確実な数字を一年間動かさずに経営の基準として使い続けること自体に、無理があると言えます。期中に新しい情報が入ってくるたびに見通しを更新していくことは、むしろ自然な経営の姿なのです。

年度予算だけで経営していると、経営陣は常に「半年前、あるいは一年前の前提」で意思決定をすることになります。予実差異の報告は「過去にどれだけずれたか」を教えてくれますが、「この先どうなるか」は教えてくれません。上期が終わって大きな未達が判明したとき、下期の残り半年で打てる手は限られています。採用を止めるのか、外注を絞るのか、価格を見直すのか、新規の営業活動を強化するのか。どの打ち手も、効果が出るまでには時間がかかるからです。

私は朋友建設で新卒時代を過ごし、会社が和議に至る過程を内側から経験しました。現場は懸命に働いていたのに、経営が将来の数字の変化に気づいたときには、打てる手がほとんど残っていませんでした。「終わってから分かる」経営の怖さは、そのとき身をもって知りました。見通しを早く、正しく知ることは、経営にとって時間という最も貴重な資源を確保することにほかなりません。

もう一つ見落とされがちなのが、年度予算の「賞味期限」は後半になるほど短くなるという点です。期首には12か月先まで見通していた予算も、第3四半期に入れば残りは6か月を切ります。多くの会社では、この時期に翌年度の予算策定作業が始まりますが、そのときに手元にあるのは「今期の予算と実績の差異」だけで、「来期の最初の数か月がどうなりそうか」という見通しはありません。結果として、翌年度の予算は今期の実績を横に伸ばしただけの数字になりがちです。

ローリングフォーキャストで常に先の12か月を見通していれば、翌年度の予算策定は、すでにある見通しをたたき台にして、そこに経営の意思を上乗せする作業になります。予算策定の負担が大きく軽くなるだけでなく、予算の根拠も明確になります。年度予算とローリングフォーキャストは対立するものではなく、むしろ互いを補い合う関係にあるのです。

特に人の稼働が原価の大半を占める業態では、判断の遅れはそのまま損失の拡大につながります。受注が想定より少ないとわかっていれば、採用の時期を後ろにずらしたり、社員を別の案件に振り向けたりすることができます。逆に、受注が想定を上回るとわかっていれば、協力会社を早めに確保して機会損失を防ぐことができます。いずれも、半年後ではなく、今わかっていることが前提です。

年度予算の弱点は、決して予算を作る人の能力の問題ではありません。一年先を正確に予測することは、誰にとっても不可能です。大切なのは、予測が外れることを前提に、外れたことにいち早く気づき、修正できる仕組みを持っているかどうかです。

「四半期予算を手放せない会社」が陥る3つの罠

年度予算の弱点を補うために、四半期ごとに予算を組み直している会社もあります。一見すると、これはローリングフォーキャストに近い運用のように思えます。しかし、実際には多くの会社が次のような罠に陥っています。

一つ目の罠は、「予算が評価の物差しとして固定されている」ことです。四半期予算の達成度がそのまま部門やマネージャーの評価に直結していると、現場は達成しやすい低めの数字を予算として出そうとします。いわゆるサンドバッギングです。また、見通しが悪化していても、それを早めに報告すると評価が下がるため、報告は四半期末の直前まで先送りされます。結果として、経営陣が本当に知りたい「悪い情報」ほど、遅れて届くことになります。

二つ目の罠は、「作り直しが重すぎて、スピードが出ない」ことです。四半期ごとに全費目をゼロベースで見直し、各部門との調整を経て承認を得る。この作業に毎回一か月以上かかっている会社は珍しくありません。これでは、四半期予算が確定したときには、すでにその四半期の三分の一が過ぎていることになります。予算を組み直すこと自体が目的化し、肝心の意思決定に使われる前に次の組み直しが始まってしまうのです。

三つ目の罠は、「期末の帳尻合わせが常態化する」ことです。四半期という区切りで予算を達成しようとすると、期末に売上の計上を急いだり、逆に費用の発生を翌期に先送りしたりする動きが生まれます。プロジェクト型ビジネスでは、検収の前倒しを顧客にお願いする、外注先への発注時期を調整するといった形で現れます。こうした帳尻合わせは、翌四半期の数字を先食いするだけで、会社の実力を何も変えません。むしろ、数字の信頼性を損ない、経営判断を誤らせる原因になります。

この帳尻合わせは、会計上の問題にもつながりかねません。検収を形式的に前倒しして売上を計上したり、発生している費用の計上を意図的に遅らせたりすれば、それは不適切な会計処理とみなされるおそれがあります。上場企業や上場準備中の企業にとっては、内部統制上の重大な指摘事項にもなり得ます。四半期の数字を守ろうとする行動が、会社の信用そのものを傷つけてしまう危険があるのです。

加えて言えば、これら三つの罠は互いに強め合う関係にあります。評価に直結しているから見通しの報告が遅れ、報告が遅れるから四半期末に慌てて予算を組み直し、組み直しが間に合わないから期末の帳尻合わせに走る。この悪循環を断ち切るには、どれか一つの罠だけに対処するのではなく、仕組み全体を見直す必要があります。

これらの罠に共通しているのは、「予算」「見通し」「評価」の三つが一体化してしまっていることです。ローリングフォーキャストを機能させるためには、この三つの関係を設計し直す必要があります。この点は後ほど詳しく取り上げます。

ある受託開発会社では、四半期ごとの予算達成率を賞与に連動させていました。その結果、各部門長は期初の予算策定で、前年実績を下回る数字しか出してこなくなりました。さらに、第2四半期に入ってすぐに大型案件の赤字化が見えていたにもかかわらず、その報告が経営会議に上がってきたのは四半期末の2週間前でした。部門長にしてみれば、早く報告しても評価が下がるだけで、何の得にもならなかったのです。経営陣がこの赤字を知ったときには、顧客との交渉で追加費用を請求するタイミングも、要員を入れ替えるタイミングも、すでに逃していました。

この会社では、評価の仕組みを見直し、見通しの精度と、早期の報告に基づく対応行動を評価項目に加えました。すると、半年ほどで「悪い見通しを早く出す」ことが当たり前の文化に変わっていきました。制度は人の行動を変えます。ローリングフォーキャストを導入するときは、仕組みの設計と同じくらい、評価制度との関係に気を配っていただきたいと思います。

四半期ごとに予算を組み直すこと自体を否定するつもりはありません。しかし、組み直した予算がそのまま評価の基準になり、その達成が目的化している限り、それは「短くなった年度予算」にすぎず、先を見通す仕組みにはなりません。必要なのは予算を組み直す頻度を上げることではなく、予算とは別に、実態に即した見通しを持つことなのです。

運用の型①:更新の粒度と頻度を決め打ちする

ローリングフォーキャストを導入しようとして頓挫する会社の多くは、毎回すべての費目をゼロベースで見直そうとして疲弊してしまいます。予算策定と同じ重さの作業を毎月繰り返せば、現場も管理部門も続かないのは当然です。

実務上は、変動の大きい項目に絞って更新するという割り切りが有効です。プロジェクト型ビジネスであれば、更新対象として優先すべきは、売上高、プロジェクト別の粗利、主要な外注費、そして人員数と稼働率です。一方で、家賃や減価償却費、システム利用料といった固定的な費目は、原則として年度予算の数字のまま据え置きます。大きな変更、たとえば新しい拠点の開設などがあった場合だけ個別に反映すれば十分です。

私の経験では、売上と粗利、外注費、人件費の四つを押さえるだけで、営業利益の見通しの変動要因の大部分をカバーできます。すべての費目を同じ精度で見ようとするのではなく、「利益を大きく動かす項目に、見通しの手間を集中させる」。この発想の転換が、運用を持続可能にする第一歩です。

更新の頻度も最初に決め打ちしておくことが大切です。私がお勧めしているのは、プロジェクト単位の着地見込みは月次で更新し、全社のローリングフォーキャストは月次で集計、経営会議での本格的な議論は四半期ごとに行う、という組み合わせです。毎月の経営会議では見通しの変化点だけを確認し、四半期ごとの会議で先の4四半期を見据えた打ち手を議論します。

さらに、更新のスケジュールを月次決算のカレンダーに組み込むことも重要です。たとえば「月次決算の確定から3営業日以内に、各プロジェクトマネージャーが着地見込みを更新する」「その2営業日後に経営企画が全社の見通しを集計する」といったように、期限と担当を明確にします。いつ、誰が、何を更新するのかが決まっていない運用は、忙しい月から順番に崩れていきます。

項目を絞る際に意識していただきたいのは、「見通しの精度」と「見通しにかかる手間」のバランスです。たとえば旅費交通費や消耗品費まで毎月見通そうとすると、手間の割に営業利益への影響はごくわずかです。一方で、外注費は案件の状況によって月ごとに大きく変動し、利益への影響も大きいため、案件単位で丁寧に見通す価値があります。自社の損益計算書を見て、前年度に予算とのずれが大きかった上位の費目から順番に更新対象に加えていくと、合理的な範囲を決めやすくなります。

見通しの粒度についても同様です。全案件を同じ粒度で見通す必要はありません。売上規模の大きい案件や、利益率の変動が大きい案件は工程ごとに詳しく見通し、小規模な定型案件は過去の平均的な粗利率で一括して見通す、といったメリハリをつけることで、全体の手間を抑えながら見通しの精度を確保できます。私の支援先では、案件数の2割程度で売上の7〜8割を占めるケースが多く、この上位の案件に見通しの手間を集中させるだけで、全社の見通しの精度は大きく改善しました。

更新のタイミングについて、もう一つ補足します。見通しは定例のスケジュールで更新するのが基本ですが、大型案件の受注や失注、重大なトラブルの発生といった大きな出来事があった場合には、定例を待たずに臨時で見通しを更新し、経営陣に報告するルールも設けておくべきです。たとえば「営業利益の見通しに1,000万円以上の影響がある事象は、判明から3営業日以内に報告する」といった基準を決めておけば、重要な情報が次の定例まで眠ってしまうことを防げます。

また、更新の頻度を高めすぎないことも大切です。週次で見通しを更新している会社もありますが、プロジェクト型ビジネスでは、案件の状況がそれほど短期間で大きく変わることは多くありません。更新の頻度を上げても精度はあまり変わらず、現場の負担だけが増えるという結果になりがちです。私の経験では、月次の定例更新と、大きな出来事があったときの臨時更新の組み合わせが、精度と負担のバランスが最もよい運用です。

運用の型②:プロジェクト単位の積み上げを起点にする

全社の見通しをトップダウンで修正するだけでは、その根拠が曖昧になりがちです。「市況が悪いので下期の売上を一割下げる」という修正は、一見わかりやすいものの、どの案件がどう変わるからその数字になるのかを説明できません。これでは、見通しが外れたときに原因を振り返ることもできず、次の見通しの精度も上がりません。

プロジェクト型ビジネスにおけるローリングフォーキャストは、案件ごとの進捗と着地見込みをボトムアップで積み上げ、それを全社の見通しに反映させる設計にすることが基本です。私は、見通しの対象となる案件を三つの層に分けて管理することをお勧めしています。

第一の層は、受注済みで進行中の案件です。ここでは、残りの作業に必要な工数と外注費を見積もり直し、完成時の総原価と粗利の見込みを更新します。進捗度に応じた売上計上の時期も、この層の見通しから導かれます。第二の層は、受注確度の高い見込み案件です。営業パイプラインの中で、提案済みや最終交渉中といったステージにある案件について、受注確度、想定金額、着手時期、想定粗利率を記録し、確度に応じて見通しに織り込みます。第三の層は、まだ具体的な案件になっていない将来の受注です。ここは過去の受注実績や営業活動の量から推計する部分であり、見通しの中で最も不確実性が高い領域になります。

この三層構造にしておくと、見通しの数字のうち「どれだけが固く、どれだけが不確実か」がひと目でわかります。先の四半期の売上見通しのうち、受注済み案件でどれだけがカバーされているのか。その比率が低ければ、営業活動を強化すべきだという判断が早い段階でできるようになります。

私がエンプレックスでCFOを務めていた時代に整えたプロジェクト単位の予実管理の仕組みは、まさにこの積み上げ型フォーキャストの土台として機能していました。案件ごとの見通しが毎月更新されているからこそ、全社の見通しの変化を「どの案件が、なぜ動いたのか」という言葉で経営陣に説明することができたのです。

三層構造の見通しを作るうえで欠かせないのが、受注確度の基準をそろえることです。営業担当者によって「確度が高い」の意味がばらばらでは、見込み案件の見通しは当てになりません。私は、確度を担当者の感覚ではなく、客観的な事実で判定するようお勧めしています。たとえば、「顧客の予算が確保されていることを確認済み」「決裁者と面談済み」「競合との比較で最終候補に残っている」といった条件を満たすかどうかで、確度のランクを決めるのです。

見込み案件を見通しに織り込む方法にも工夫が必要です。確度に応じて金額に掛け目をかける方法は一般的ですが、プロジェクト型ビジネスでは、案件が受注できるかどうかは「0か100か」です。掛け目をかけた数字だけを見ていると、大型案件が一件失注しただけで見通しが大きく崩れることに気づきにくくなります。そこで、掛け目をかけた期待値の見通しとあわせて、主要な見込み案件が受注できた場合とできなかった場合の二つのシナリオを並べて示すことをお勧めしています。経営陣は、見通しの幅を把握したうえで、どの案件の受注に経営資源を集中すべきかを判断できるようになります。

三層のうち、第三層の将来受注の推計についても触れておきます。この部分は、過去の実績から「一か月あたりどれくらいの新規案件が、どれくらいの金額で受注できているか」を把握し、それを先の期間に当てはめて推計します。ここで重要なのは、推計の根拠を明示しておくことです。過去12か月の平均を使ったのか、季節性を考慮したのか、営業人員の増減を反映したのか。根拠がわかっていれば、実績とずれたときに、どの前提が違っていたのかを検証できます。

このように層ごとに見通しを分けておけば、経営会議での議論も具体的になります。第一層の粗利の悪化であれば実行管理の問題、第二層の受注時期のずれであれば営業の問題、第三層の不足であれば営業活動量の問題と、打ち手の担い手と中身がはっきりするからです。

運用の型③:更新の「言い訳化」を防ぐ仕組み

見通しを毎月更新できるようになると、今度は逆の問題が起きやすくなります。「今月未達でも、来月の見通しを下げれば済む」という安易な帳尻合わせです。見通しの更新が、数字の悪化を正当化するための手続きになってしまえば、ローリングフォーキャストは経営の緊張感を失わせる道具になってしまいます。

これを防ぐために最も効果的なのは、見通しを下方修正した際には、必ずその要因分析と対応策をセットで報告させる運用ルールを設けることです。数字の更新だけを許し、原因分析を省略させない。たとえば、プロジェクトの着地粗利を下方修正する場合には、「原価が増えた要因は何か(工数の見積誤り、仕様変更、外注単価の上昇など)」「その増加分を顧客に請求できるか」「残りの工程で取り戻す手立てはあるか」を、あわせて記録させます。

要因の分類をあらかじめ決めておくことも有効です。見通しの変動要因を「受注時期のずれ」「受注金額の変更」「原価の増減」「失注」「新規受注」といった区分で記録しておけば、四半期ごとにどの要因による変動が多いのかを集計できます。受注時期のずれが繰り返し大きな要因になっているなら営業の見込み精度に課題があり、原価の増加が多いなら見積や実行管理に課題があることがわかります。見通しの更新履歴そのものが、組織の弱点を教えてくれる情報源になるのです。

もう一つ大切なのは、見通しの精度を振り返る仕組みです。三か月前に出した見通しと、実際の着地を比較し、そのずれを案件単位で確認します。見通しを楽観的に出しがちなマネージャーと、慎重に出しがちなマネージャーの傾向も見えてきます。ここで大事なのは、ずれを責めることではなく、次の見通しの精度を上げるための学びとして扱うことです。見通しの精度が上がるほど、経営陣はその数字を信頼して、早めに打ち手を講じられるようになります。

見通しの精度を測る指標としては、たとえば「3か月前時点の見通しと実際の着地との差を、売上高で割った比率」を四半期ごとに記録しておくとよいでしょう。全社だけでなく、部門別、プロジェクトマネージャー別にも同じ指標を見ることで、精度の改善が進んでいるところと、そうでないところが明確になります。精度が低い部門には、見積の方法や進捗の把握の仕方に課題があることが多く、見通しの精度という一つの指標から、業務の改善点が浮かび上がってきます。

上方修正についても同様に扱います。見通しが良くなったときも、その根拠を確認しておかなければ、翌月に反動で大きく下がるということが起こります。上振れも下振れも、同じ規律で扱うことが、見通しの信頼性を高めます。

ある建設会社では、見通しの下方修正が毎月のように続き、経営会議のたびに「想定外の原価増」という説明が繰り返されていました。そこで、変動要因の記録を区分ごとに集計してみたところ、原価増の半分以上が「着工後の設計変更」に起因しており、しかもその多くが顧客への追加請求の交渉がされないまま原価として吸収されていたことがわかりました。この会社では、設計変更が発生した時点で追加見積を作成し、顧客との協議を記録することをルール化しました。その結果、見通しの下方修正は大きく減り、粗利率の改善にもつながりました。

このように、見通しの更新に要因分析を組み込むことは、単に数字の言い訳を防ぐだけでなく、利益を生み出す業務改善のきっかけにもなります。見通しの数字が変わったときこそ、組織にとって学びのチャンスです。その変化を、原因とともに記録し続ける仕組みを持つことが、ローリングフォーキャストの価値を何倍にも高めてくれます。

さらに、見通しを更新する際の判断をプロジェクトマネージャー一人に委ねず、上長による確認のステップを入れておくことも有効です。特に、着地粗利の大きな変更や、完成時期の延期といった重要な変更については、上長が内容を確認し、必要に応じて本人と対話したうえで確定させます。このひと手間が、見通しの数字に組織としての裏付けを与え、経営会議での信頼性を高めます。

予算・見通し・評価の関係を設計し直す

先ほど、四半期予算を手放せない会社の罠は「予算」「見通し」「評価」の三つが一体化していることにある、と述べました。ローリングフォーキャストを定着させるうえで、実はこの設計の見直しが最も重要であり、最も難しい部分です。

まず、予算は「目標」、見通しは「予測」として、明確に役割を分けます。予算は期首に経営陣が組織に示すコミットメントであり、原則として期中に変更しません。見通しは、その時点で最も確からしい着地を示すものであり、毎月更新されます。そして経営会議では、予算と見通しの差、つまり「このままいけば目標に対してどれだけ足りないのか、あるいは上回るのか」を議論の出発点にします。

次に、評価との関係です。見通しの数字そのものを評価に直結させると、現場は必ず見通しを操作するようになります。私がお勧めしているのは、評価の軸を「予算の達成度」だけでなく、「見通しの精度」と「差異への対応行動」にも置くことです。悪い見通しを早く正直に出し、そのうえで挽回策を実行したマネージャーは、評価されるべきです。逆に、見通しを期末直前まで楽観的に出し続け、最後に大きく未達を報告するような行動は、たとえ最終的な数字が同じでも、評価を下げるべきです。こうしたメッセージを経営陣が明確に発信することで、悪い情報が早く上がってくる組織文化が育ちます。

経営会議の運営も変える必要があります。予実差異の報告会になっている経営会議では、議論のほとんどが過去の説明に費やされます。ローリングフォーキャストを導入した会社では、会議の時間の多くを「見通しと予算の差をどう埋めるか」「リスクの高い案件にどう手を打つか」という未来の議論に使うよう、議題の構成そのものを組み替えることをお勧めしています。ホリプロで経営企画を担当していた頃、性格の異なる作品や公演の見通しを同じテーブルで議論する難しさを経験しましたが、共通の形式で見通しと差異を示すことで、議論の焦点が格段に定まりやすくなりました。

上場企業や上場準備中の企業であれば、この見通しの仕組みは業績予想の開示とその修正判断にも直結します。予想の修正が必要かどうかを適時に判断できるかどうかは、日々の見通しの精度と更新の速さにかかっているのです。

見通しの報告形式を統一することも、議論の質を高めるうえで効果的です。私がお勧めしているのは、経営会議の資料の最初のページに、予算、前月時点の見通し、今月時点の見通し、そして予算との差を並べた一枚の表を置くことです。そのうえで、前月からの見通しの変化を、先ほど述べた変動要因の区分ごとに分解して示します。「今月は受注時期のずれで2,000万円の悪化、新規受注で1,500万円の改善、差し引き500万円の悪化」というように示されれば、経営陣は数字の変化を一目で理解し、議論をすぐに打ち手に移すことができます。

評価制度を見直す際には、段階的に進めることも大切です。いきなり評価の軸を大きく変えると、現場に混乱を招きます。最初の一年は、見通しの精度や報告の早さを評価の参考情報として記録するだけにとどめ、二年目から正式な評価項目に加えるといった進め方も一つの方法です。大切なのは、経営陣が「悪い情報を早く出すことを歓迎する」という姿勢を、言葉と行動で示し続けることです。見通しの悪化を報告したマネージャーを経営会議の場で責めてしまえば、それまでの制度設計はすべて水の泡になります。

見通しと予算の差が大きく開いたとき、予算を修正すべきかどうかも、あらかじめ方針を決めておくとよいでしょう。私は、事業環境が根本的に変わった場合、たとえば主要顧客との取引が終了した、大規模な事業譲渡を行ったといった場合に限って予算を正式に修正し、それ以外の場合は予算を据え置いて差を議論し続けることをお勧めしています。予算を安易に修正すれば、それは目標を引き下げることと同じ意味になるからです。

200社の支援で見えた定着の分かれ目と、始め方

これまで200社を超えるプロジェクト型ビジネスの経営管理を支援してきた中で、ローリングフォーキャストが定着する会社には、はっきりとした共通点がありました。それは、更新作業を経理部門だけで抱え込まず、プロジェクトマネージャー自身が自分の案件の見通しを入力する体制を持っていたことです。

定着を妨げるもう一つの要因は、見通しの入力が現場にとって「経理のための作業」になってしまうことです。これを防ぐには、入力した見通しが現場自身の役に立つようにする工夫が必要です。たとえば、プロジェクトマネージャーが自分の担当案件の予算・実績・見通しを一つの画面で確認でき、原価の消化が進捗に比べて早すぎる場合にはアラートが表示される。そうした仕組みがあれば、見通しの入力は自分の案件を守るための作業になります。現場にとっての価値があってこそ、運用は長続きするのです。

導入を進める際には、最初に経営陣自身が「なぜローリングフォーキャストを始めるのか」を社内に向けて語ることも欠かせません。「数字の管理を厳しくするため」と受け止められれば、現場は身構えます。「早く手を打つために、現場の知っている情報を経営に届けてほしい」という目的を、社長自身の言葉で伝えることが、現場の協力を得る第一歩になります。

案件の残り工数や原価の増減、顧客との交渉状況を最もよく知っているのは、現場のプロジェクトマネージャーです。本人が見通しを入力すれば、情報は最も新しく、正確になります。逆に、経理部門が全案件についてヒアリングをして代理入力している会社では、更新の負荷が高く、数か月で運用が形骸化してしまう傾向がはっきりと見られました。代理入力では、見通しの数字に対する当事者意識も生まれにくくなります。

もう一つの分かれ目は、経営トップの関与です。社長が経営会議で毎月見通しを確認し、その変化について質問し続ける会社では、運用は自然と定着します。反対に、見通しの資料が作られても経営会議で使われない会社では、現場は入力する意味を見失い、更新は次第に止まっていきます。

これから導入する会社には、三か月で始める段階的な進め方をお勧めしています。最初の一か月は、進行中の主要案件、たとえば売上規模の大きい上位二十件程度に絞り、プロジェクトマネージャーに完成時の総原価と粗利の見込みを入力してもらいます。次の一か月で、営業パイプラインの見込み案件を受注確度つきで加え、先の四半期の売上見通しを作ります。三か月目に、固定費を予算の数字で置いた全社の損益見通しを組み立て、初めて経営会議で予算との差を議論します。最初から完璧を目指さず、対象を絞って回し始め、運用しながら範囲を広げていくことが、定着への近道です。

なお、見通しの精度は最初から高くはありません。最初の数か月は、見通しと実績のずれが大きいことに驚かれると思います。しかし、そのずれを案件単位で振り返ることを続けていけば、半年から一年ほどで、四半期の着地見通しが大きく外れない水準まで精度は上がっていきます。

導入の初期によくある質問に、「どのツールで見通しを管理すべきか」というものがあります。最初はExcelで始めても構いません。大切なのは、ツールよりも運用のルールを先に固めることです。ただし、案件数が増え、関わるプロジェクトマネージャーが多くなってくると、Excelのファイルを配布して回収し、集計するという作業そのものが大きな負担になります。ファイルのバージョン違いや、集計ミスも起こりやすくなります。運用のルールが固まり、対象範囲を広げる段階に入ったら、案件別の実績と見通しを一つの場所で管理し、全社の見通しに自動で集計できる仕組みへの移行を検討すべきでしょう。

まとめ:予算を「守る」経営から、見通しで「先回りする」経営へ

ローリングフォーキャストは、年度予算を否定する手法ではありません。予算という仮説を実績で検証し続け、常に鮮度の高い着地見通しをもとに、先回りして手を打つための運用の型です。

ローリングフォーキャストの運用は、経営陣と現場の間に「未来の数字についての共通言語」をつくる取り組みでもあります。同じ見通しを見て、同じ差を認識し、同じ打ち手を議論する。その積み重ねが、組織全体の判断のスピードを上げ、変化に強い会社をつくっていきます。

本稿でお伝えしたポイントを振り返ります。まず、四半期予算を組み直すだけの運用には、評価との一体化による情報の遅れ、作り直しの重さ、期末の帳尻合わせという三つの罠があります。そのうえで、運用の型として、更新対象を利益を大きく動かす項目に絞り、頻度とスケジュールを決め打ちすること。案件単位の積み上げを起点に、受注済み・見込み・将来受注の三層で見通しを組み立てること。下方修正には必ず要因分析と対応策を伴わせ、見通しの精度を振り返る仕組みを持つこと。そして、予算・見通し・評価の関係を設計し直し、悪い情報が早く上がってくる組織をつくることです。

また、ローリングフォーキャストで得られる見通しは、損益だけでなく資金繰りの見通しにも生かすべきです。プロジェクト型ビジネスでは、売上の計上と入金のタイミング、原価の発生と支払のタイミングが大きくずれることがあります。案件ごとの着地見込みに、請求と入金の予定、外注費の支払予定を組み合わせれば、先の数か月の資金繰りの見通しも立てられます。利益は出ているのに資金が足りないという事態を未然に防ぐためにも、損益と資金の見通しを一体で管理することをお勧めします。

こうした運用を支えるには、プロジェクトごとの実績と見通しが一つの場所に集まり、全社の見通しへと自動的に積み上がる仕組みが欠かせません。私たちが提供している「eMplex PBM」のフォーキャストレポートは、プロジェクトマネージャーが入力した案件別の着地見込みと、営業パイプラインの受注見込みを集約し、予算との差を月次で可視化するための機能です。Excelでの集計作業に追われて見通しの更新が止まってしまっている会社には、運用を支える仕組みの一つとしてご検討いただければと思います。

eMplex PBMでは、プロジェクトマネージャーが担当案件の着地見込みを更新すると、その内容が全社の見通しと予算との差に即座に反映されます。見通しの変更履歴も案件ごとに残るため、先ほど述べた変動要因の分析や、3か月前の見通しとの比較も、集計作業に追われることなく行えます。

最後に、見通しの仕組みは一度作れば終わりではないことも付け加えておきます。事業の構成が変われば、更新すべき項目も、確度の基準も、三層の比率も変わっていきます。半年に一度程度、見通しの運用そのものを振り返り、手間に見合った精度が出ているか、経営会議で本当に使われているかを点検することをお勧めします。運用を点検し、改善し続ける姿勢そのものが、見通しで先回りする経営の土台になります。

年度予算を守ることに全力を注ぐ経営から、見通しをもとに先回りする経営へ。この転換は、一度の制度変更ではなく、毎月の小さな運用の積み重ねによって実現します。まずは主要案件の着地見込みを、プロジェクトマネージャー自身が入力するところから始めてみてください。

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