フォーキャスト経営

バックキャスティングからフォアキャスティングへ

予算を決めて終わりにする経営から、日々の実績で着地を予測し、先回りして軌道修正し続ける経営へ。目標はバックキャスティングで定め、管理はフォアキャスティングで行う。二つの考え方の正しい役割分担と、着地見込みの月次更新、乖離の異常検知、意思決定への組み込みという三つのステップを、実務の視点で徹底解説します。

結論:予算を「守る」経営から、見通しで「先回りする」経営へ

最初に結論を申し上げます。プロジェクト型ビジネスの経営に必要なのは、受注時に決めた予算を絶対のゴールとして守り続ける経営から、日々の実績をもとに「このままいくとどこに着地するか」を予測し直し、先回りして軌道修正し続ける経営への転換です。本稿では、前者をバックキャスティング型の経営、後者をフォアキャスティング型の経営と呼び、その転換をどのように進めればよいのかを、実務の視点からお伝えします。

ただし、誤解のないように最初に申し添えておきます。本稿は、バックキャスティングという考え方そのものを否定するものではありません。目指すべき将来の姿を描き、そこから逆算して今やるべきことを決めるバックキャスティングは、ビジョンや中長期の目標を定めるうえで、非常に有効な考え方です。問題は、その考え方を、日々のプロジェクトの管理にまでそのまま当てはめてしまうことにあります。目標はバックキャスティングで定め、進捗の管理と意思決定はフォアキャスティングで行う。二つの考え方に、正しい役割を与えることが大切なのです。

多くのプロジェクト型企業では、案件を受注した時点で予算を立て、その予算の達成を目指して案件を進めます。予算は、受注の判断の根拠であり、プロジェクトマネージャーにとっての目標であり、経営にとっての約束事です。ここまでは何の問題もありません。問題が生じるのは、案件が進むにつれて、当初の予算の前提が崩れていくにもかかわらず、管理の基準が予算のまま動かないときです。仕様の変更、協力会社の遅れ、要員の入れ替わり、想定外の技術的な課題。こうした出来事が起きても、「予算に対して今いくら使ったか」だけを見ていると、「このままいけば最終的にいくらかかるのか」という、最も大切な問いへの答えが得られません。その結果、赤字は案件の終盤、あるいは完了後になって初めて明らかになります。

私は新卒で入社した朋友建設で、会社が和議に至る過程を内側から経験しました。現場は懸命に働いていたのに、工事ごとの着地の見込みが経営に見えていなかった。予算は立てられていても、その予算が現実から離れていくことに、経営が気づくのが遅すぎたのです。この経験は、私のプロジェクト管理会計の仕事の原点になっています。その後、エンプレックスでCFOを務めた際には、案件ごとの着地の見込みを毎月更新し、予算との乖離を経営会議で議論する仕組みを整えました。そこで実感したのは、見通しが早く正確に分かることは、経営にとって「時間」という最も貴重な資源を手に入れることだ、ということでした。

プロジェクト型ビジネスでは、一件の案件の損益が、会社全体の業績を大きく左右することが珍しくありません。大型の案件が一件赤字になるだけで、その期の利益の大半が失われることもあります。だからこそ、案件ごとの着地をできるだけ早く、正確に知ることが、経営にとって決定的に重要なのです。

フォアキャスティング型の経営への転換は、特別なツールや高度な分析の手法を必要とするものではありません。着地の見込みを月次で更新する仕組み、予算との乖離を異常として検知する仕組み、そして検知した異常に対して軌道修正を決める仕組み。この三つのステップを、段階を踏んで整えていけば、どの会社でも実現できます。

本稿では、まずバックキャスティングとフォアキャスティングという二つの考え方を整理し、予算だけに頼る経営の限界を確認したうえで、転換のための三つのステップを詳しく解説します。さらに、転換を阻む組織的な抵抗への向き合い方、業種ごとの応用のポイント、導入までの流れ、そして具体的な事例までをお伝えします。

なお、本稿は2026年9月に公開した同じテーマのコラムを、大幅に加筆したものです。初版では三つのステップの骨格をお伝えしましたが、今回は、二つの考え方の関係、着地の見込みの計算の方法、異常の基準の決め方、会議の運営の仕方、数値例や事例を加え、経営者や管理部門、プロジェクトマネージャーの方が、自社の管理を見直す際に使えるよう、内容を大きく掘り下げています。

フォアキャスティング型の経営は、経営陣にとってだけでなく、現場のプロジェクトマネージャーにとっても価値があります。自分の案件の着地の見込みが毎月見えていれば、問題が小さいうちに手を打てます。上司や経営陣に相談する際にも、「なんとなく厳しい」ではなく、「このままでは粗利率が十ポイント下がる見込みなので、追加の要員が必要だ」と、数字で説明できるようになります。見込みは、マネージャーが自分の案件を守るための道具でもあるのです。

本稿で扱うのは、主に個々のプロジェクト、つまり案件の単位での管理です。ただし、後ほど述べるように、案件ごとの着地見込みを積み上げれば、会社全体の業績の見通しにもつながります。案件の管理の転換は、そのまま会社全体の経営の転換につながっているのです。

バックキャスティングとフォアキャスティング:二つの考え方を正しく理解する

転換の話に入る前に、二つの考え方を正しく整理しておきましょう。

バックキャスティングとは、もともと、望ましい将来の姿を先に描き、そこから現在に向かって逆算して、今何をすべきかを考える方法を指す言葉です。環境政策やエネルギー政策の分野で広く使われるようになり、企業の経営でも、中長期のビジョンや目標を定める際の考え方として定着しています。現状の延長線上では到達できない、野心的な目標を掲げるときに力を発揮する考え方です。

プロジェクトの管理に当てはめれば、バックキャスティングとは、受注時に「この案件は、この予算で、この粗利を出して完了させる」というゴールを定め、そのゴールに向かって工程や要員の計画を逆算して組み立てることに相当します。ゴールが明確であるため、関係者の目線をそろえやすく、計画性も高まります。

一方、フォアキャスティングとは、現在の状況や過去からの実績の積み重ねをもとに、将来を予測する考え方です。プロジェクトの管理に当てはめれば、日々蓄積される実績のデータをもとに、「このままいけば、この案件はいつ、いくらの原価で、どれだけの粗利で着地するのか」を継続的に予測し直していくことに相当します。

二つの考え方の違いを、もう少し具体的に比べてみましょう。バックキャスティングの起点は「あるべき姿」であり、フォアキャスティングの起点は「現在の実績」です。バックキャスティングが問うのは「目標に到達するために何をすべきか」であり、フォアキャスティングが問うのは「このままいけばどうなるか」です。バックキャスティングで作られる数字は「目標」であり、原則として期中に動かしません。フォアキャスティングで作られる数字は「予測」であり、新しい情報が入るたびに更新されます。

そして、最も大切なのは、この二つの数字の「差」です。目標と予測の差が、経営が手を打つべき課題の大きさを示します。予測が目標を下回っているなら、その差をどう埋めるのかを考える。予測が目標を上回っているなら、その余力をどう生かすのかを考える。目標だけでも、予測だけでも、この差は見えません。バックキャスティングで定めた目標と、フォアキャスティングで得た予測を並べて見ることで、初めて経営の判断に必要な情報がそろうのです。

多くの会社で起きているのは、目標だけがあって予測がない状態です。予算という目標は立てられているのに、それに対する最新の予測が存在しない。あるのは「予算に対して、今月までにいくら使ったか」という実績の報告だけです。実績は過去の事実を教えてくれますが、将来については何も語りません。予算の八割を使ったという報告を受けても、それが順調なのか危険なのかは、残りの作業にどれだけかかるのかが分からなければ判断できないのです。

私は、予算を「その時点で分かっていた情報をもとにした仮説」と捉えることをお勧めしています。受注の時点では、分からないことがたくさんあります。顧客の本当の要望、技術的な難しさ、協力会社の力量、要員の習熟の度合い。予算は、そうした不確実さを抱えたまま、その時点での最善の見積として作られた仮説です。仮説であれば、新しい事実が分かるたびに検証され、必要であれば見通しが更新されるべきです。この前提を組織全体で共有できているかどうかが、フォアキャスティング型の経営への転換の出発点になります。

二つの考え方を、ドライブにたとえてみましょう。バックキャスティングは、目的地と到着の予定時刻を決め、そこから逆算して出発の時刻とルートを決めることです。フォアキャスティングは、走行中に、現在の位置と速度、道路の混雑の状況から、「このままいけば何時に着くか」を予測し続けることです。カーナビゲーションは、この二つを同時に行っています。目的地という目標を保ちながら、渋滞や通行止めという新しい情報が入るたびに到着の予想時刻を更新し、必要ならルートの変更を提案します。目的地を決めずに走り出すことも、渋滞に気づかずに当初のルートを走り続けることも、望ましくありません。プロジェクトの管理にも、この両方が必要なのです。

ここで、用語の使い方について一言補足しておきます。一般に「フォーキャスト」という言葉は、将来の予測という意味で広く使われています。本稿でフォアキャスティングと呼んでいるのは、単に将来を予測することではなく、実績をもとに予測を継続的に更新し、それを意思決定に使い続ける経営の考え方のことです。一度作った予測を放置してしまえば、それはもう一つの予算にすぎません。更新され続けることが、フォアキャスティングの本質です。

実務の上では、二つの数字を一枚の表に並べて見られるようにしておくことが大切です。案件ごとに、当初の予算、前月時点の着地見込み、今月時点の着地見込み、そして予算との差を並べる。この表があれば、目標と予測の関係が一目で分かり、どの案件の差が広がっているのかをすぐに把握できます。

もう一つ大切なのは、予測を「当てるための数字」ではなく「気づくための数字」として扱うことです。予測は、どれほど丁寧に作っても外れることがあります。しかし、毎月更新される予測の変化を追っていれば、案件の状況が悪い方向に動き始めた瞬間に気づくことができます。予測の価値は、その正確さそのものよりも、変化を早く知らせてくれることにあるのです。

バックキャスティング型の管理の限界:なぜ予算だけでは後手に回るのか

受注時に目標となる予算を決め、その達成を目指して案件を進めていくバックキャスティング型の管理は、計画性という観点では有効です。しかし、プロジェクトが進む中で発生する想定外の事態に対して、当初の予算をゴールとし続けるだけでは、対応が後手に回ります。その理由を、いくつかの角度から見ていきましょう。

第一の理由は、前提の変化です。プロジェクトの予算は、受注時点の前提に基づいて作られています。仕様の範囲、工程の順序、投入する要員とその習熟度、協力会社の単価と納期。これらの前提は、案件が進むにつれて、多かれ少なかれ変わっていきます。顧客から仕様の追加や変更の要望が出る。協力会社の作業が遅れる。予定していた要員が別の案件に取られ、経験の浅いメンバーに代わる。こうした変化が起きても、管理の基準が当初の予算のままであれば、変化の影響は数字に表れません。特に長期のプロジェクトほど、着手時点の予算と現実の乖離は大きくなりがちです。

第二の理由は、実績だけでは将来が見えないことです。予算型の管理で報告されるのは、多くの場合、「予算に対していくら使ったか」という消化の状況です。先ほど述べたように、消化の状況だけでは、案件が順調なのか危険なのかは判断できません。具体的な数字で考えてみましょう。予算原価一千万円の案件で、今月までに七百万円を使ったとします。予算の七割を消化した計算です。作業の進捗も七割であれば、順調と言えるかもしれません。しかし、実際の進捗が五割にとどまっていたとしたら、残りの五割の作業にも同じペースで原価がかかると仮定すれば、完了までに一千四百万円かかる計算になります。予算を四百万円超過する見通しです。消化率だけを見ていれば「まだ三百万円残っている」と安心してしまうところですが、着地の予測をすれば、すでに大きな超過が見込まれていることが分かるのです。

第三の理由は、人の心理です。予算を唯一の基準として管理していると、プロジェクトマネージャーは予算を守ることにこだわり、悪い見通しを報告することをためらいがちです。「まだ挽回できる」「次の工程で取り戻せる」と考え、問題の報告を先送りする。予算の超過が明らかになったときには、すでに打てる手がほとんど残っていない。こうした経験をお持ちの経営者は少なくないはずです。予算を守ることが評価の基準になっている組織ほど、この傾向は強くなります。

第四の理由は、報告と判断の遅れです。予算型の管理では、案件の完了後や、月次の決算が締まった後に、予算と実績を比べて差異を分析するのが一般的です。しかし、差異の分析は、すでに起きたことの説明にすぎません。完了後の分析は、次の案件の教訓にはなっても、その案件の損失を減らすことはできません。月次の決算を待ってから差異を確認していれば、判断は常に一か月以上遅れることになります。

第五の理由は、経営全体への波及です。一つひとつの案件の見通しが分からなければ、会社全体の業績の見通しも分かりません。期末になって複数の案件の赤字が一度に明らかになり、業績の予想を大きく下方修正せざるを得なくなる。上場企業であれば、市場からの信頼を大きく損なう事態です。未上場の企業であっても、金融機関への説明や、資金繰りの計画に影響が出ます。案件ごとの見通しの遅れは、会社全体の経営の遅れに直結しているのです。

こうした限界は、予算そのものに問題があるから生じるのではありません。予算を「更新されない唯一の基準」として使い続けることに問題があるのです。予算は、目標として、また受注の判断の根拠として、引き続き大切な役割を持っています。その予算を、最新の予測という別の数字で補うこと。それがフォアキャスティング型の経営の出発点です。

第六の理由として、予算の作り方そのものの問題も挙げておきます。受注の競争が激しい局面では、受注を優先するあまり、予算の原価が楽観的に見積もられることがあります。「この金額でないと受注できない」という事情から、見積の原価を契約金額に合わせて調整してしまうのです。こうして作られた予算は、最初から現実と乖離しています。その予算を唯一の基準として管理すれば、案件の途中で予算を超過するのは当然の結果です。フォアキャスティングで着地の見込みを継続的に確認していれば、こうした「無理な予算」の案件を早い段階で把握し、受注の判断そのものを振り返るきっかけにもなります。

こうした限界に気づくための簡単な点検の方法があります。直近に完了した案件をいくつか選び、完了の三か月前、六か月前の時点で、その案件の最終的な損益がどれくらい見えていたかを振り返ってみてください。もし、完了の直前まで予算どおりに進んでいると思われていた案件が、最終的に大きな赤字になっていたとすれば、それはバックキャスティング型の管理の限界が表れている証拠です。

さらに言えば、予算だけに頼る管理は、良い知らせにも鈍感になります。案件が予算より順調に進み、着地の粗利が大きく上振れしそうな場合でも、予算との比較だけでは、それが分かるのは完了後です。上振れの見通しが早く分かれば、浮いた要員を別の案件に振り向けたり、次の受注の判断に生かしたりすることができます。見通しの把握は、損失を防ぐためだけでなく、機会を生かすためにも必要なのです。

ステップ1:着地見込みを月次で更新する仕組みを持つ

フォアキャスティング型の経営への転換の最初のステップは、案件ごとの着地見込みを月次で更新する運用を定着させることです。

着地見込みとは、その案件が完了した時点での売上、原価、粗利の予測値です。原価の着地見込みは、基本的に「これまでに発生した原価の実績」と「完了までに発生すると見込まれる残りの原価」の合計として計算します。残りの原価は、残りの作業にかかる工数に時間単価を掛けた労務費、今後発生する外注費、その他の経費を積み上げて見積もります。売上の着地見込みも、追加の受注や減額の可能性を反映して更新します。

着地見込みの計算には、いくつかの方法があります。一つは、残りの作業を具体的に洗い出し、それぞれにかかる工数と費用を積み上げる方法です。最も手間がかかりますが、最も根拠のある見込みになります。もう一つは、これまでの実績の効率から機械的に予測する方法です。たとえば、進捗の割合に対する原価の消化の割合から、残りの作業にも同じ効率で原価がかかると仮定して計算します。先ほどの例で、進捗五割、原価の消化七百万円であれば、完了までの原価は一千四百万円と予測されます。この方法は手間がかからず、自動的に計算できる利点があります。

私がお勧めしているのは、この二つを組み合わせることです。まず、機械的な方法で着地の予測を自動的に計算し、それを「このままいけばどうなるか」という基準の予測として示します。そのうえで、プロジェクトマネージャーが、残りの作業の見通しを踏まえて、その予測を確認し、必要に応じて修正します。機械的な予測とマネージャーの判断が大きく異なる場合には、その理由を記録してもらいます。「前半に集中していた設計の作業が終わったので、後半の効率は上がる見込み」といった理由です。こうすることで、見込みの精度と根拠の両方を確保できます。

更新の頻度は、月次を基本とします。案件の規模が大きい場合や、リスクが高い場合には、隔週や週次での更新も検討に値します。大切なのは、更新のタイミングを月次決算のカレンダーに組み込み、期限と担当をはっきりさせることです。たとえば、「月次決算の確定から三営業日以内に、各プロジェクトマネージャーが担当案件の着地見込みを確認・更新する」「その二営業日後に、経営企画が全案件の見込みを集計し、経営会議の資料を作る」といったルールです。

ここで重要なのは、実績のデータが入力されるたびに、着地見込みが自動で再計算される仕組みを持つことです。手作業に頼った運用は、忙しい時期ほど更新が滞りがちになり、結局は形骸化してしまうリスクを常に抱えています。工数や外注費の実績が日々記録され、それに応じて機械的な予測が自動で更新されていれば、マネージャーは月に一度、その予測を確認し、判断を加えるだけで済みます。

そして、この仕組みの土台になるのが、原価の実績の正確さです。工数を月末にまとめて記憶で入力していれば、実績そのものがずれ、着地見込みもずれます。外注費を請求書が届いてから計上していれば、実際に作業が進んでいる分の原価が反映されず、見込みは実態より楽観的になります。工数の日次での記録と、外注費の発生の時点での計上。この二つが、着地見込みの精度を支える前提条件です。

着地見込みの更新を始めると、最初の数か月は、見込みが月ごとに大きく動くことに驚かれるかもしれません。それは、それまで見えていなかった現実が、数字として見えるようになった証拠です。更新を続け、見込みと実際の着地を比べて振り返っていけば、見込みの精度は着実に上がっていきます。

着地見込みを更新する際には、原価だけでなく、売上の見込みも忘れずに見直してください。追加の作業について顧客と合意できれば、売上の見込みは増えます。逆に、作業の範囲の縮小や値引きの要請があれば、売上の見込みは減ります。売上の見込みに含めるのは、書面で合意された金額など、確度の高いものに限るという基準を決めておくと、見込みが楽観的になりすぎることを防げます。交渉中の追加の対価は、別枠で「可能性」として記録しておき、合意が得られた時点で見込みに加える、といった運用が現実的です。

また、案件ごとの着地見込みを積み上げれば、会社全体の業績の見通しも自動的に得られます。全案件の着地見込みを、売上の計上の時期ごとに集計すれば、今期と来期の売上と粗利の見通しが分かります。これに、受注の見込み案件の予測を加えれば、会社全体のローリングフォーキャストになります。案件ごとのフォアキャスティングは、全社の経営計画の精度を高めるための土台でもあるのです。

見込みの更新を始める際には、案件ごとに「見込みの根拠」を簡潔に記録する欄を設けておくことをお勧めします。残りの作業として何を想定しているのか、どのような前提を置いているのか。たとえば、「残りの画面の開発が十二本、一本あたり二十時間を想定」「顧客の受入れテストでの指摘は二十件程度を想定」といった記録です。前提が明確になっていれば、実際の状況が前提と違ってきたときに、すぐに見込みを見直すきっかけになります。

見込みの更新の手間を減らすためには、更新の対象を絞ることも有効です。完了間近で残りの作業がほとんどない案件や、まだ着手して間もない小規模な案件については、機械的な予測をそのまま使い、マネージャーの確認を簡略化する。一方で、金額が大きく、進捗が中盤に差しかかった案件は、残りの作業を具体的に積み上げて丁寧に見直す。案件の状況に応じてメリハリをつけることで、全体の手間を抑えられます。

ステップ2:予算と見込みの乖離を「異常」として検知する

着地見込みを月次で更新できるようになったら、次のステップは、当初の予算と最新の着地見込みとの乖離を、単なる数字の変化としてではなく、「対応が必要な異常」として検知する仕組みを整えることです。

案件の数が増えると、すべての案件の見込みを毎月一つひとつ確認することは難しくなります。経営陣が見るべきなのは、すべての案件の数字ではなく、手を打つ必要のある案件です。そのために、一定の基準を超えた案件を自動的に抽出し、アラートとして示す仕組みを作ります。そうすれば、経営陣が能動的に情報を探しに行かなくても、重要な変化を見逃さない体制を作れます。この段階で初めて、フォアキャスティングは「見るだけの数字」から「動くための数字」へと変わります。

どのような指標で異常を検知するかは、会社や業種によって異なりますが、私が支援先でよく使っているのは次の指標です。

一つ目は、粗利率の悪化です。当初の予算の粗利率と、最新の着地見込みの粗利率を比べ、一定のポイント以上悪化している案件を抽出します。たとえば、「予算の粗利率から五ポイント以上悪化した案件」を注意、「着地の見込みが赤字になった案件」を警告とする、といった二段階の基準です。

二つ目は、原価の消化率と進捗率の乖離です。先ほどの例のように、予算原価に対する実績原価の割合が、作業の進捗率を大きく上回っている案件は、このままでは原価が超過する可能性が高い案件です。「消化率が進捗率を十五ポイント以上上回った案件」を抽出するといった基準が考えられます。この指標は、着地見込みの更新を待たずに、実績のデータから早期に異常を捉えられる利点があります。

三つ目は、見込みの変化の大きさです。前月の着地見込みから、今月の着地見込みが大きく変わった案件を抽出します。見込みが急に悪化した案件は、何か大きな出来事が起きている可能性があります。

四つ目は、スケジュールの遅れです。完了の予定日が当初の計画から一定の期間以上遅れている案件を抽出します。スケジュールの遅れは、原価の増加や、売上の計上時期のずれにつながるため、早めの確認が必要です。

基準の水準は、最初から完璧に決める必要はありません。私がお勧めしているのは、過去の案件のデータを見ながら、仮の基準を決めて運用を始め、数か月の運用を経て調整していく方法です。基準が厳しすぎれば、アラートの数が多くなりすぎて、本当に重要な案件が埋もれてしまいます。逆に、基準が緩すぎれば、手を打つべき案件を見逃してしまいます。アラートの数が、経営会議で一件ずつ議論できる程度の件数に収まるよう、基準を調整していくことが大切です。

また、案件の規模に応じて、基準を使い分けることも有効です。金額の大きい案件では、わずかな率の悪化でも金額の影響は大きくなります。そのため、率だけでなく、悪化の金額にも基準を設けておくとよいでしょう。「粗利率が五ポイント以上悪化した案件、または粗利の悪化額が三百万円を超えた案件」といった基準です。

アラートが上がった案件については、プロジェクトマネージャーに、その原因と対応策をあわせて報告してもらうルールを設けます。数字の変化だけを報告し、原因の分析と対策を省略させない。このルールが、アラートを単なる通知から、行動のきっかけへと変えます。原因の報告は、「仕様変更への対応」「見積の誤り」「協力会社の遅れ」「要員の変更」といった区分で記録しておくと、後で傾向を分析する際に役立ちます。

アラートの設計で注意したいのは、アラートが多すぎる状態を放置しないことです。毎月数十件のアラートが上がり、そのほとんどが確認されないまま流されていくようになると、組織はアラートを無視することに慣れてしまいます。いわゆる警報の慣れです。アラートは、経営会議の時間の中で、一件ずつ原因と対策を確認できる件数に絞り込むべきです。件数が多すぎる場合は、基準を見直すか、金額の大きい案件を優先するといった工夫をしてください。

異常の検知は、悪化の方向だけでなく、改善の方向にも目を向けると、より有益になります。見込みが予算を大きく上回って改善している案件には、その理由があるはずです。見積の余裕が大きすぎたのか、それとも作業の進め方に優れた工夫があったのか。前者であれば見積の方法を見直す手がかりになり、後者であれば、そのやり方を他の案件に広げる機会になります。

異常の検知を、月次の会議を待たずに行う仕組みも有効です。実績のデータが日々記録されていれば、消化率と進捗率の乖離といった指標は、月の途中でも計算できます。基準を超えた時点で、プロジェクトマネージャーと事業の責任者に通知が届くようにしておけば、次の経営会議を待たずに対応を検討できます。問題に気づいてから対応を決めるまでの時間を短くすることが、フォアキャスティングの価値をさらに高めます。

異常の検知の結果は、プロジェクトマネージャー本人にも同時に共有されるようにしておくことが大切です。経営陣だけがアラートを見て、マネージャーが後から呼び出されるという形では、アラートは「監視の道具」と受け止められてしまいます。マネージャー自身が最初にアラートに気づき、原因を整理し、対策を考えたうえで経営会議に臨む。そうした流れを作ることで、アラートは現場を支える道具として機能します。

ステップ3:軌道修正を意思決定のサイクルに組み込む

最後のステップは、検知した乖離に対してどう対応するかを、定例の経営会議やプロジェクトレビューのサイクルに組み込むことです。着地見込みの更新、異常の検知、そして対応の意思決定という一連の流れを仕組み化することで、フォアキャスティング型の経営は特別な取り組みではなく、日常的な経営プロセスの一部として定着していきます。

経営会議の運営の仕方を変えることが、このステップの中心です。予算と実績の差異の報告が中心の経営会議では、議論の多くが過去の説明に費やされます。フォアキャスティング型の経営会議では、議題の構成を次のように組み替えることをお勧めしています。

最初に、全社の着地見込みを確認します。全案件の着地見込みを合計した、会社全体の売上と粗利の見通しを、予算と並べて示します。予算との差がどれだけあるのか、その差は前月からどう変わったのかを確認します。

次に、アラートが上がった案件を一件ずつ確認します。プロジェクトマネージャーから、見込みの悪化の原因と、考えている対応策を報告してもらいます。そのうえで、経営陣が対応を決めます。

対応の選択肢は、いくつかに整理できます。顧客と追加の費用や作業範囲について交渉する。要員を補強する、あるいは入れ替える。工程や作業の進め方を見直す。協力会社との契約の条件を見直す。そして、損失を最小限に抑えるために、作業の範囲を絞り込む。どの選択肢を取るかは、案件の状況と、顧客との関係によって異なります。大切なのは、判断を先送りせず、その場で誰が、いつまでに、何をするのかを決めることです。

そして最後に、前月に決めた対応の結果を確認します。対応が効果を上げているのか、見込みは改善しているのか。この確認を毎月繰り返すことで、意思決定と実行と検証のサイクルが回り始めます。

意思決定の記録を残すことも重要です。どの案件について、どのような見込みの悪化があり、どのような対応を決め、その結果どうなったのか。この記録が蓄積されると、自社でどのような種類の問題が起きやすいのか、どのような対応が効果的だったのかが見えてきます。その知見は、次の案件の見積や計画に生かすことができます。

仕組みが定着すれば、担当者が変わっても運用の質が落ちないという副次的な効果も得られます。特定のベテランの経験や勘に頼るのではなく、組織としての判断の流れが確立されるからです。

ここで、ある映像制作会社の事例をご紹介します。この会社では、これまで予算どおりに進んでいるかどうかを、完成後の請求の段階で初めて確認していました。制作の途中で予算の超過に気づくことはほとんどなく、完成してみたら赤字だったという案件が、年に何件も発生していました。フォアキャスティングの運用に切り替えてからは、撮影、編集、納品といった工程ごとに実績を記録し、月次で着地見込みを更新するようになりました。あわせて、粗利率が一定以上悪化した案件を経営会議で必ず取り上げるルールを設けました。導入から一年後には、着手直後の段階で赤字のリスクを把握できた案件が複数発見され、いずれも早期の対応、たとえば撮影日数の見直しや、追加の対価についての顧客との協議によって、最終的な損失を最小限に抑えることができたといいます。

この事例が示しているのは、フォアキャスティングの価値は、予測の数字そのものよりも、予測によって生まれる「対応のための時間」にあるということです。同じ問題でも、完成後に気づけば損失を受け入れるしかありませんが、着手直後に気づけば、打てる手はいくらでもあります。

経営会議での議論の時間配分にも気を配ってください。私がお勧めしているのは、会議の時間の大半を、アラートが上がった案件の対応の議論と、前月に決めた対応の結果の確認に使うことです。順調な案件の報告は、一覧の資料で確認するだけにとどめます。議論すべきことに時間を集中させることで、経営会議は「数字を聞く場」から「手を打つ場」へと変わります。

エンプレックスでCFOを務めていた頃、私は経営会議の最初の資料を、全案件の着地見込みの一覧に切り替えました。それまでは、前月の損益の報告から始まり、会議の大半が過去の数字の説明に使われていました。着地見込みの一覧から始めるようにしてからは、議論の焦点が自然と「どの案件に、どう手を打つか」に移っていきました。資料の順番を変えるだけでも、会議の性格は大きく変わるのです。

軌道修正の判断には、損失を確定させる判断も含まれることを忘れてはいけません。どれほど手を尽くしても、着地の見込みを予算に戻せない案件もあります。その場合には、見込みの悪化を経営として受け入れ、会計上も必要な処理、たとえば受注損失引当金の計上を検討したうえで、これ以上損失を広げないことに集中します。挽回にこだわるあまり、さらに要員を投入して損失を拡大させることは避けなければなりません。現実を受け入れる判断もまた、フォアキャスティングがもたらす大切な意思決定です。

意思決定のサイクルを回すうえで、案件の完了後の振り返りも欠かせません。完了した案件について、受注時の予算、各月の着地見込み、そして実際の着地を並べ、見込みがいつから、どの理由で変わったのかを確認します。そのうえで、受注の判断や見積の方法、案件の進め方に改善すべき点がなかったかを話し合います。一件ごとの振り返りは小さな取り組みですが、積み重ねることで、組織の見積と管理の力は確実に高まっていきます。

転換を阻む組織的な抵抗と、現場の懸念への答え

新しい仕組みを導入する際、現場からは「今までのやり方で問題なかった」という声が上がることも珍しくありません。フォアキャスティングへの転換は、単なるツールの導入ではなく、仕事の進め方そのものの変化を伴うため、丁寧な説明と小さな成功体験の積み重ねが欠かせません。現場からよく挙がる懸念と、それに対する私の考えをご紹介します。

一つ目の懸念は、「予測がまた外れたらどうするのか」というものです。プロジェクトマネージャーの中には、着地見込みを報告することで、その数字に責任を負わされることを恐れる人がいます。しかし、フォアキャスティングの目的は、予測を完璧に的中させることではありません。予測と実績のずれにいち早く気づき、対応する時間を確保することにあります。予測が外れること自体は問題ではなく、外れたことに気づくのが早いか遅いかこそが重要だという考え方を共有することが、現場の心理的なハードルを下げます。

二つ目の懸念は、「悪い見込みを報告すると、評価が下がるのではないか」というものです。これは、組織の文化と評価の仕組みに関わる、最も根深い問題です。予算の達成だけが評価の基準になっている組織では、マネージャーは悪い見込みを隠そうとします。経営陣は、悪い見込みを早く正直に報告したマネージャーを責めるのではなく、むしろ評価するという姿勢を、言葉と行動で示し続ける必要があります。見込みの悪化を報告した場で、経営陣がマネージャーを叱責すれば、それまでの仕組みづくりはすべて水の泡になります。評価の軸に、予算の達成度だけでなく、見込みの精度や、早期の報告に基づく対応の行動を加えることも有効です。

三つ目の懸念は、「毎月の見込みの更新は手間がかかる」というものです。確かに、残りの作業を毎月ゼロから見積もり直すのは大きな負担です。だからこそ、先ほど述べたように、実績のデータから機械的な予測を自動で計算し、マネージャーはそれを確認して判断を加えるだけで済む仕組みにすることが大切です。更新にかかる時間を実際に計測し、一案件あたり数分から十数分で済むことを示せば、この懸念の多くは解消されます。

四つ目の懸念は、「経理や経営企画の仕事であって、現場の仕事ではない」というものです。しかし、案件の残りの作業の見通しを最もよく知っているのは、現場のマネージャーです。経理部門が全案件のヒアリングをして代わりに見込みを作る方法では、情報の鮮度も精度も落ち、数か月で運用が形骸化してしまう傾向がはっきりと見られます。現場のマネージャー自身が見込みを更新し、それが自分の案件を守るための道具になっていると実感できることが、定着の鍵です。

こうした抵抗に向き合ううえで、私がお勧めしているのは、まず一部の重要案件から試験的に運用を始め、効果を実感してもらいながら段階的に展開していくアプローチです。最初の数件で、見込みの更新によって赤字の兆候を早く捉え、対応によって損失を抑えられたという成功体験が生まれれば、それが社内への何よりの説得材料になります。

ここで、よくいただく質問にもお答えしておきます。

「フォアキャスティングへの転換には、どれくらいの期間がかかるか」という質問です。企業の規模や案件の数にもよりますが、一部の重要案件から試験導入し、効果を確認しながら全社に展開する場合、半年から一年程度を見込む企業が多いようです。

「すべての案件で、同じ精度の予測が必要か」という質問もよくいただきます。案件の規模やリスクに応じて、予測の精度を使い分けることは可能ですし、むしろ推奨されます。金額の大きい案件やリスクの高い案件では、残りの作業を具体的に積み上げた詳しい見込みを作り、小規模な定型の案件では、機械的な予測を基本とする、といったメリハリをつけることで、全体の手間を抑えながら、重要な案件の精度を確保できます。

組織の抵抗に向き合ううえで、もう一つ大切なのは、経営陣自身が変わることです。経営陣が予算の達成だけを求め続けていれば、現場はいつまでも予算を守るための管理から抜け出せません。「予算との差があることは問題ではない。問題は、その差に気づくのが遅れることだ」というメッセージを、経営陣が繰り返し発信し、実際にその姿勢で会議を運営すること。それが、組織の文化を変える最も確実な方法です。

ホリプロで経営企画を担当していた頃、作品や公演ごとの収支の見通しを早めに共有してもらう取り組みを進めたことがあります。当初は、制作の現場から「数字の報告は完成してからで十分だ」という声もありました。しかし、見通しを早く共有した作品で、追加の協賛の獲得や、公演の日程の見直しといった手が打てた経験が重なると、現場の受け止め方は変わっていきました。どの業界でも、見通しの共有が「自分たちの仕事を助けてくれる」と実感できたときに、仕組みは定着するのだと感じます。

評価の仕組みについても一言添えておきます。見込みの精度を評価に取り入れる場合、単に「見込みと実績の差が小さいこと」だけを評価すると、マネージャーは最初から控えめな見込みを出すようになるおそれがあります。大切なのは、見込みの変化に早く気づき、報告し、対応したかどうかという行動の側面を評価することです。

業種による応用のポイントと、導入までの流れ

フォアキャスティングの運用で注目すべき変動要因は、業種によって異なります。自社の業種の特性に応じて、着地見込みの計算に組み込むべき変動要因を明確にしておくことが、精度の高い運用の土台になります。

IT・ソフトウェア開発業では、仕様の変更と手戻りが、着地見込みに最も大きな影響を与える要因です。要件が固まらないまま設計や開発が進むと、後工程で大きな手戻りが発生します。仕様変更の要望の件数と、それに伴う追加の工数を記録し、見込みに反映させる仕組みが重要です。また、テストの工程で発見される不具合の件数も、残りの工数を左右する大きな要因です。

建設業では、資材の価格と天候が大きな変動要因です。資材の価格が大きく動く局面では、発注前の資材について、最新の価格で見込みを更新する必要があります。天候による工期の遅れは、現場の経費や労務費の増加につながります。設計の変更に伴う追加の工事について、顧客との契約の変更がきちんと行われているかも、見込みの精度に直結します。

映像制作業では、撮影の日数とロケーションの調整が、着地見込みに影響を与えやすい要因です。天候や出演者の都合による撮影の延期、追加の撮影の発生、編集の段階での修正の回数などを記録し、見込みに反映させます。

コンサルティング業では、顧客側の都合による作業の範囲の拡大と、コンサルタントの稼働の超過が主な変動要因です。定額の契約で作業の範囲が広がれば、そのまま採算の悪化につながります。

業種を問わず共通して言えるのは、変動要因の記録を、見込みの更新と同じ場所で行うことの大切さです。仕様変更の件数、天候による中断の日数、撮影の追加の回数といった記録が、着地見込みの数字と同じ画面で確認できれば、見込みがなぜ変わったのかを誰もがすぐに理解できます。別々の資料に分かれていると、数字の変化と原因を結びつける作業に、余計な時間がかかってしまいます。

いずれの業種でも、自社にとっての主な変動要因を三つから五つ程度に絞り込み、それらを毎月の見込みの更新の際に必ず確認する項目として定めておくことをお勧めします。

次に、導入までの流れを整理しておきます。フォアキャスティングへの転換は、対象の案件を絞り込むところから始めるのが現実的です。

最初の段階では、金額の規模の大きい重要案件を数件選び、月次での着地見込みの更新を試験的に運用します。この段階では、見込みの計算の方法、更新の手順、報告の形式を固めることに集中します。

次の段階では、並行して、当初の予算と最新の着地見込みとの乖離を、どの程度で「異常」とみなすかの基準を、実際のデータを見ながら固めていきます。過去の案件のデータがあれば、それを使って基準の妥当性を検証することもできます。

三つ目の段階で、試験運用で手応えを得たら、対象の案件を段階的に広げていきます。あわせて、アラートの仕組みを整え、経営会議の議題の構成を、着地見込みを中心としたものに組み替えます。

四つ目の段階で、経営会議やプロジェクトレビューの定例の議題に組み込み、組織全体の標準的な運用として定着させていきます。この段階では、意思決定の記録を残し、対応の結果を検証するサイクルを回し始めます。

そして五つ目の段階で、完了した案件について、各時点の着地見込みと実際の着地を比較し、見込みの精度を振り返ります。この振り返りの結果を、見込みの計算の方法や、見積の方法の改善に生かしていきます。

焦らず段階を踏むことが、結果的に最短で定着させる道になります。

導入を成功させるためには、最初に対象とする案件の選び方も工夫が必要です。私がお勧めしているのは、金額が大きく、かつ現在進行中で、プロジェクトマネージャーが新しい取り組みに前向きな案件を選ぶことです。試験運用の段階では、仕組みの完成度よりも、関係者の協力の度合いが成否を左右します。前向きなマネージャーとともに成功例を作り、その経験を社内に共有してもらうことで、次の展開がずっと楽になります。

また、試験運用の期間中から、経営陣が着地見込みを実際に使って判断する場面を作ることも大切です。見込みの数字が経営会議で議論され、それに基づいて要員の補強や顧客との交渉が決まる。そうした場面を目にすることで、現場は見込みの更新が意味のある仕事だと実感できます。

フォアキャスティングの運用が定着した後も、半年に一度程度は、仕組みそのものを振り返ることをお勧めします。アラートの基準は適切か、見込みの精度は上がっているか、経営会議での意思決定は実行されているか。事業の構成や組織の体制が変われば、仕組みもそれに合わせて手直しが必要になります。仕組みは作って終わりではなく、育てていくものです。

導入の期間の目安としては、試験運用に三か月程度、対象の拡大と経営会議への組み込みにさらに三か月から六か月程度を見ておくと、無理のない計画になります。最初の三か月は、見込みの数字の精度よりも、毎月決まった日に更新される習慣を作ることを優先してください。習慣が定着すれば、精度は運用とともに上がっていきます。

まとめ:目標はバックキャスティングで、管理はフォアキャスティングで

バックキャスティングからフォアキャスティングへの転換は、一朝一夕には実現しません。しかし、着地見込みの更新、異常の検知、そして軌道修正の意思決定という三つのステップを仕組み化することで、着実に実現できます。

バックキャスティングで描いた目標は、組織に方向を与えます。フォアキャスティングで得た予測は、組織に現在地を教えます。方向と現在地の両方が分かって初めて、組織は目標に向かって確かに進むことができます。どちらか一方だけでは、組織は迷い、あるいは気づかないうちに道を外れてしまいます。

その転換の過程で、組織には確かな変化が生まれます。悪い情報が早く上がってくるようになる。経営会議の議論が、過去の説明から未来の判断へと移っていく。プロジェクトマネージャーが、自分の案件の着地に責任を持ち、自ら手を打つようになる。そして、完成してみて初めて赤字が分かるという案件が、目に見えて減っていきます。

本稿でお伝えしたことを振り返ります。バックキャスティングは、目指すべき姿を定め、そこから逆算して計画を立てるための有効な考え方です。一方、日々のプロジェクトの管理を当初の予算だけで行おうとすると、前提の変化に気づけず、実績だけでは将来が見えず、悪い情報の報告が遅れ、判断が後手に回ります。そこで、予算という目標はそのままに、実績から着地を予測するフォアキャスティングの仕組みを加え、目標と予測の差を経営の判断の出発点にします。

eMplex PBMでは、案件ごとの予算、前月時点と今月時点の着地見込み、そして予算との差を一つの画面で並べて確認できます。見込みの変更の履歴と、その理由の記録も案件ごとに残るため、経営会議での議論の根拠として、また完了後の振り返りの材料として活用できます。工数の日次の記録から原価の実績が自動で積み上がるため、着地見込みの計算の土台となる数字を、現場に余計な手間をかけることなく整えられる点も特徴です。

最初の一歩として、まずは次の三つを確認してみてください。一つ目は、進行中の主要な案件について、完了時の原価と粗利の見込みを、今すぐ答えられるかどうか。二つ目は、その見込みが、いつ時点のどのような前提に基づいているのかが分かるかどうか。三つ目は、予算との差が広がっている案件について、誰が、いつまでに、何をするのかが決まっているかどうか。このうち一つでも答えに詰まるものがあれば、そこがフォアキャスティング型の経営への転換の出発点になります。

私たちが提供している「eMplex PBM」のフォーキャストレポートは、実績のデータが入力されるたびに着地見込みを自動で再計算し、予算比の乖離が一定の基準を超えた案件を自動的に検知する仕組みを、標準の機能として備えています。担当者が手作業で予測を更新する必要がなく、経営会議の前には、すでに着地見込みと異常案件の一覧が整った状態を実現できます。eMplex PBMは、このフォアキャスティング型の経営を支えるために開発された、独自のフォーキャストマネジメントの手法を実装したサービスです。

予算を守ることに全力を注ぐ経営から、見通しをもとに先回りする経営へ。目標はバックキャスティングで定め、管理はフォアキャスティングで行う。この役割分担を組織に根づかせることが、プロジェクト型ビジネスで安定した利益を生み出し続けるための、確かな道筋になると私は考えています。

最後に、この転換は、会社の規模を問わず取り組めるものだということをお伝えしておきます。社員が数十名の会社でも、進行中の主要な案件が数件あれば、その着地見込みを毎月更新し、経営会議で予算との差を確認するところから始められます。むしろ、規模が小さいうちに仕組みを作っておけば、会社が成長して案件の数が増えたときにも、管理の質を落とさずに済みます。

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