人材マネジメント

構造的空隙:組織を強くする多方向ネットワーク

「優秀な人を集めたのに、組織としての成果が出ない」という悩みの背景には、社内の情報やアイデアが特定のグループの中でしか流れていないという構造的な問題が潜んでいることがあります。社会学でいう「構造的空隙」とは、つながっていない集団と集団の間に橋を架ける人や関係性のことです。本記事では、この考え方を使って、なぜ多方向のネットワークを持つ組織が強いのかを解説します。

構造的空隙とは「つながっていない隙間」を埋める価値

構造的空隙とは、社会学者ロナルド・バートが提唱した概念で、互いにつながっていない集団と集団の間にある情報の隙間のことを指します。この隙間に橋を架ける人は、双方が持つ異なる情報や視点を組み合わせられる立場にあり、組織の中で新しいアイデアを生み出しやすい位置にいます。同じ部署やグループの中だけで固く結束したネットワークよりも、離れた集団をつなぐ関係性の方が、組織全体の創造性を高める効果を持っています。

「仲の良いチーム」が必ずしも強い組織とは限らない理由

同じ部署のメンバー同士が仲良く、意思疎通がスムーズなチームは一見理想的に見えます。しかし、そうしたチームの情報は内部で閉じてしまいがちで、他部署や外部で起きている変化に気づくのが遅れるという弱点を抱えています。組織全体で見たとき、部署間や職種間をまたいで情報を運ぶ人がいなければ、良いアイデアも局所的なまま埋もれてしまいます。強い組織には、内部の結束と同時に、外とつながる橋渡し役の存在が欠かせません。

複数業種を渡り歩いた経験から見えた橋渡しの価値

私自身、エンプレックス時代に不動産建設業の会計知識をベースにしながら、映像制作業やソフトウェア開発、ITサービス業といった異なる業種の経営管理に携わる機会を得ました。業種ごとに常識とされる管理手法はまったく異なりますが、ある業種の当たり前を別の業種に持ち込むと、思いがけない改善につながることが何度もありました。プロジェクト管理会計という考え方自体、複数の業種を橋渡しした経験から体系化されたものです。

プロジェクト型組織は放っておくと分断しやすい

プロジェクト単位でチームが編成される組織は、プロジェクトごとに閉じた小さなチームが乱立しやすく、他のプロジェクトで得られた知見が横に共有されない構造に陥りがちです。あるプロジェクトで解決した課題が、別のプロジェクトでも繰り返し発生しているというのは珍しい話ではありません。プロジェクト間の情報を横断的に見られる仕組みや役割をあえて用意しないと、組織は知らないうちに分断が進んでしまいます。

橋渡し役を意図的に育てる、配置する

構造的空隙を埋める人材は、放置していても自然発生するとは限りません。異動やジョブローテーションを通じて複数の部署やプロジェクトを経験させる、部門横断のプロジェクトに意図的にアサインするといった働きかけによって、橋渡しできる人材を意図的に育てることができます。200社以上の支援の中でも、成長スピードの速い会社ほど、こうした横断的な人材配置を人事戦略として明確に位置づけている傾向がありました。

経営情報の可視化が橋渡しを後押しする

人と人がつながるだけでなく、プロジェクトごとの予算・実績・見通しといった経営情報そのものが組織全体で見える状態になっていることも、構造的空隙を埋める助けになります。他部署の状況が数字で見える化されていれば、直接の面識がなくても「あのプロジェクトと自分たちのプロジェクトには共通点がある」と気づくきっかけが生まれます。情報の透明性は、人的ネットワークの橋渡しを後押しする土台としても機能するのです。

まとめ

組織の強さは、仲の良さや結束の固さだけでは測れません。むしろ、つながっていない集団と集団の間に橋を架ける人がどれだけいるかが、組織の創造性と対応力を左右します。ネットワークとは、内に閉じて固めるものではなく、外へ広げて橋を架けるものだと言えるでしょう。

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