IPO・上場準備

プロジェクト型ビジネスのためのTOKYO PRO Market上場準備―「案件ごとの数字」を審査に耐える経営管理へ変える実務ロードマップ

形式基準がなく「上場しやすい」と言われるTOKYO PRO Market。しかしプロジェクト型ビジネスにとっての本当の関門は、案件ごとの売上・原価・工数を説明できるかどうかです。J-Adviserが何を見ているのか、どこから準備に手をつけるべきかを、CFO経験と200社超の支援実務から整理します。

結論:TPM上場準備の本丸は「プロジェクト単位の数字の信頼性」です

最初に結論を申し上げます。建設、システム開発、コンサルティング、映像制作といったプロジェクト型ビジネスがTOKYO PRO Market(以下、TPM)への上場を目指すとき、準備の成否を分けるのは、会社全体の決算書をきれいに整えることではありません。「一件一件のプロジェクトについて、売上・原価・工数・進捗・見込みを、誰が見ても同じ結論になる形で説明できるかどうか」です。

TPMは売上や利益、株主数、時価総額といった数値の形式基準が設けられていない市場です。だからこそ審査の目は、会社の実態、つまり「この会社の数字は信頼できるのか」「この会社は自分の事業をコントロールできているのか」という実質面に集中します。そしてプロジェクト型ビジネスの場合、会社の数字はプロジェクトの数字の積み上げでしかありません。案件ごとの採算が曖昧な会社は、全社の損益も、事業計画も、実は説明できていないのです。

逆に言えば、プロジェクト別の管理会計がきちんと回っている会社は、TPM上場準備の半分以上をすでに終えているとも言えます。本稿では、この「プロジェクト単位の数字の信頼性」を軸に、TPM上場準備を実務的に進める道筋をお伝えします。

実際、私が以前ご相談を受けた年商30億円規模のシステム開発会社では、全社の決算は毎期黒字で、経営者も「うちは数字はしっかりしている」と自信を持っていました。ところが上場準備の初期診断でプロジェクト別の損益を洗い出してみると、全体の約2割の案件が赤字で、その赤字を一部の高収益案件が穴埋めしている構造であることがわかりました。しかも赤字案件の多くは、完了間際になって初めて赤字が判明していたのです。全社の数字が黒字であることと、事業をコントロールできていることは、まったく別の話です。TPMの準備とは、この二つの距離を埋める作業だと言い換えてもよいでしょう。

TOKYO PRO Marketとはどんな市場か―形式基準がないからこそ実質が問われる

TPMは東京証券取引所が運営する、株式の売買を特定投資家(いわゆるプロ投資家)に限定した市場です。一般市場であるプライム・スタンダード・グロースとの大きな違いは、上場の可否を判断する主体と基準にあります。一般市場では主幹事証券会社の引受審査と取引所の上場審査を経ますが、TPMでは取引所から資格を認められた「J-Adviser」が、上場適格性の調査・確認を担い、上場後も継続的に指導・助言を行います。

近年、TPMの存在感は急速に高まっています。2024年、2025年と年間40〜50社規模の新規上場が続き、2026年8月末時点の上場会社数は180社を超えています。新規上場数でグロース市場を上回る年も出てきており、中堅・中小企業や地方企業にとって、上場の現実的な選択肢になったと言ってよいでしょう。

プロジェクト型ビジネスの経営者の方には、TPMの上場審査を「会社の健康診断を、専門家に一定期間かけて受けること」とイメージしていただくとわかりやすいと思います。健康診断で見られるのは、見た目の体格ではなく、血液や内臓といった体の中の状態です。同じように、TPMで見られるのは売上規模や利益額の大きさではなく、その数字を生み出している業務と管理の仕組みの状態なのです。

ただし「形式基準がない」ことを「審査が甘い」と誤解してはいけません。公募による資金調達や株主数の要件がない分、J-Adviserは企業の継続性、経営の健全性、内部管理体制、開示の適正性といった実質面を丁寧に確認します。一般市場で求められる内部統制報告制度(いわゆるJ-SOX)の適用はありませんが、それは「内部統制が不要」という意味ではなく、「会社の規模に見合った実効的な仕組みを、自分たちで設計して説明せよ」という意味だと私は受け止めています。

上場後の義務についても、準備段階から理解しておくことが大切です。TPM上場会社は、有価証券報告書ではなく「発行者情報」を年に一度、さらに半期ごとの情報を開示し、重要な事実が発生した際には適時開示を行います。開示は日本語だけでなく英語でも可能です。また、J-Adviserとの契約は上場後も継続し、その報酬や監査報酬、開示対応の人件費など、上場を維持するためのコストが毎年発生します。上場はスタートラインにすぎず、「上場会社としての経営管理を毎月・毎期続けられる体制かどうか」が問われているのだと理解しておくと、準備の優先順位を誤らずに済みます。

なぜ今、プロジェクト型ビジネスがTPMを選ぶのか

私のもとには、ここ数年、プロジェクト型ビジネスの経営者からTPM上場の相談が明らかに増えています。背景には、この業態ならではの切実な事情があります。

第一に、採用です。プロジェクト型ビジネスの売上は、突き詰めれば「優秀な人材の稼働時間×単価」で決まります。人が採れなければ受注を断るしかない。上場企業という看板が、エンジニアや施工管理技士、プロデューサーといった専門人材の採用力を大きく引き上げるという声は、支援先から繰り返し聞いてきました。

第二に、取引上の信用です。大手企業や官公庁との取引、元請としての受注拡大を狙う場面では、与信審査や取引口座開設のハードルが常に存在します。上場によって開示と監査を受けている会社であることが、受注機会の拡大に直結するケースは少なくありません。

第三に、株主構成を大きく変えずに上場できることです。TPMは公募や売出しを必須としないため、オーナー経営者が経営権を維持したまま上場企業となる道が開かれています。事業承継やM&Aを見据えた「会社の値札づくり」としてTPMを活用する経営者もいます。

そして第四に、これが最も本質的だと考えていますが、上場準備そのものが「経営管理の仕組み化」の強力な推進力になることです。社長の頭の中にしかなかった案件の採算感覚を、会社の仕組みに移し替える。TPM上場は、そのための期限付きプロジェクトとして非常に有効なのです。

もちろん、良いことばかりではありません。TPMは売買の担い手が特定投資家に限られるため、株式の流動性は一般市場に比べて限定的です。上場によって大きな資金調達を行うことを主目的とするなら、他の選択肢と比較検討すべきでしょう。また、先ほど触れた上場維持コストに加え、開示や決算の早期化に対応する管理部門の人材確保も必要になります。私は相談に来られる経営者に、「上場して何を実現したいのか」を必ず最初にお尋ねします。採用なのか、信用なのか、承継なのか、それとも経営管理の高度化なのか。目的がはっきりしていれば、準備の過程で迷ったときの判断軸になりますし、J-Adviserとの面談でも、上場の意義を自分の言葉で語れるようになります。

J-Adviserは何を見ているのか―プロジェクト型企業が突かれやすい5つの論点

J-Adviserによる調査では、事業内容、経営陣、ガバナンス、財務、内部管理など広範な項目が確認されます。その中でプロジェクト型ビジネスが特に質問を受けやすい論点を、私の支援経験から5つに絞ってご紹介します。

一つ目は収益認識です。一定期間にわたり履行義務を充足する契約について、進捗度をどう見積もっているのか。原価比例法を採用するなら、見積総原価の算定根拠と、その見直しのプロセスが問われます。二つ目は原価の集計と配賦です。労務費や外注費が正しくプロジェクトに紐づいているか、共通費や間接費をどのような基準で配賦しているか、その基準は合理的で継続的か。三つ目は仕掛品と損失の認識です。未成工事支出金や仕掛品に、本来は費用処理すべき原価が滞留していないか。赤字が見込まれる案件について、受注損失引当金や工事損失引当金を適時に計上する仕組みがあるか。

四つ目は予算と実績の管理です。事業計画の売上・利益が、どの案件の受注見込みの積み上げで構成されているのかを説明できるか。予実差異が出たとき、その原因を案件単位で分析し、次の計画に反映しているか。五つ目は受注の属人性と取引先の集中です。特定の営業担当者や社長個人の人脈に受注が依存していないか、売上の大半を特定顧客が占めていないか。これは事業の継続性そのものに関わる論点です。

このほか、取引先の反社会的勢力チェックの体制も、上場会社として当然に求められる事項です。プロジェクト型ビジネスでは、案件ごとに新しい顧客や協力会社との取引が発生するため、取引開始時のチェックを受注・発注の承認フローに組み込んでおくことが現実的です。

お気づきのとおり、五つの論点はいずれも「プロジェクトごとの数字が、仕組みとして正しく記録され、判断に使われているか」という一点に収れんします。

実際の調査の場では、「この案件の見積総原価は、受注後に何回、誰の承認で見直しましたか」「期末時点の仕掛品のうち、1年以上動いていない案件はありますか」「前期の予算と実績の差異の主因は何で、今期の計画にどう反映しましたか」といった、非常に具体的な質問が投げかけられます。経理部門だけで答えられる質問はほとんどなく、プロジェクト責任者や営業責任者の協力が不可欠です。ここで回答に窮する会社の多くは、担当者の能力の問題ではなく、そもそも情報が記録として残る仕組みになっていないことが原因です。質問への回答を準備するのではなく、質問されたときに記録を見せれば済む状態をつくる。それが上場準備の本当の目標です。

準備の第一歩は、プロジェクトコードと工数・原価の「一気通貫」を整えること

では、どこから手をつければよいのか。私が支援先で必ず最初に確認するのは、「受注から請求までのすべての取引が、同じプロジェクトコードで追いかけられるか」という点です。

見積書、受注、発注、外注先からの請求、社員の工数入力、経費精算、売上計上。これらがそれぞれ別のシステムや別のExcelで、別の案件番号によって管理されている会社は驚くほど多いものです。こうした状態では、月末に経理担当者が手作業で突き合わせてプロジェクト別損益を作ることになり、締めは遅れ、数字の正確性も担保できません。J-Adviserや監査法人から「この案件の原価の内訳を見せてください」と言われたとき、根拠資料をすぐに出せないのは致命的です。

外注先の管理も見落とせません。プロジェクト型ビジネスでは、協力会社やフリーランスへの外注費が原価の大きな割合を占めることが多く、発注書のないまま作業が始まる、請求書が届いて初めて原価が判明する、といった運用は珍しくありません。発注の段階でプロジェクトコードと金額を確定させ、検収をもって原価を計上する流れにしておけば、原価の計上漏れや期ずれを防げますし、取引先との契約関係も明確になります。これは下請法やフリーランス新法への対応という観点からも重要です。

特に重要なのがタイムシート、つまり工数の記録です。プロジェクト型ビジネスの原価の大部分は人件費であり、その配賦の根拠は工数しかありません。工数入力が月末にまとめて記憶で入力されている、あるいは入力率が低く一部の社員の工数が欠けている、といった状態では、原価計算の信頼性そのものが揺らぎます。まずは日次または週次での入力を定着させ、入力漏れを管理者が確認し、承認する流れを作ることです。

この「一気通貫」の土台ができれば、プロジェクト別の原価、粗利、進捗度が自動的に見えるようになり、収益認識や損失引当の判断も、根拠のある数字に基づいて行えるようになります。上場準備で求められる多くの資料は、この土台の上に自然と積み上がっていきます。

私が支援先で進める手順は、大きく三段階です。第一段階では、プロジェクトコードの採番ルールを決め、見積から請求まですべての帳票にコードを記載することを徹底します。第二段階では、工数入力を日次または週次で定着させ、外注費や経費もコード単位で計上する流れを整えます。第三段階で、月次でプロジェクト別損益を作成し、経営会議で案件ごとの粗利と進捗をレビューする場を設けます。ある映像制作会社では、この三段階に約半年をかけました。当初は現場から「入力が面倒だ」という声が上がりましたが、自分の担当作品の採算が毎月見えるようになると、プロデューサー自らが原価の使い方を工夫し始め、半年後には全社の粗利率が数ポイント改善しました。上場準備のための仕組みが、そのまま収益改善の仕組みになった好例です。

事業計画の説明力を、プロジェクト別フォーキャストで担保する

上場準備では、中期の事業計画と、それを支える単年度予算の説明が求められます。プロジェクト型ビジネスの計画づくりで私がよく目にする失敗は、「前年売上×成長率」というトップダウンの数字だけで計画を作ってしまうことです。これでは、なぜその売上が達成できるのかを説明できません。

説得力のある計画は、受注済み案件(バックログ)、受注確度の高い見込み案件、そして過去実績から推計する新規受注の三層で組み立てます。受注済み案件については、進捗予定に沿った売上計上時期と原価の見込みを示す。見込み案件については、確度のランク分けと、その評価基準を明確にする。新規受注の部分は、営業パイプラインの転換率や平均案件規模といった実績値から推計する。こうすることで、計画の各数字に「根拠となる案件リスト」が紐づきます。

さらに大切なのが、毎月の見込み更新、つまりフォーキャストです。予算を立てて終わりではなく、各案件の進捗と着地見込みを毎月更新し、期末の着地予想を経営会議で共有する。上場後は業績予想の開示と、その修正の要否判断が求められますが、その精度は日々のフォーキャストの精度でほぼ決まります。予算と実績の乖離が大きい会社は、審査の場で「この会社は自社の業績をコントロールできていないのではないか」という疑念を持たれてしまいます。

フォーキャストの運用で私が重視している指標は、受注残高、案件別の粗利率、そして人員の稼働率の三つです。受注残高は将来売上の確度を示し、粗利率の推移は見積精度と実行管理の良し悪しを示し、稼働率は人という供給能力に対して受注が過不足ないかを示します。この三つを毎月同じ形式で経営会議に出し続けるだけで、経営陣の会話は「今月いくら売れたか」から「この先の数字をどう作るか」へと変わっていきます。目安として、四半期単位の着地見込みと実績の差が、売上高の数パーセント程度に収まるようになれば、上場後の業績予想にも一定の自信を持てる水準だと私は考えています。そこに至るまでには通常、数四半期分の試行錯誤が必要ですから、上場準備の早い段階から運用を始めることが肝要です。

もう一つ見落とされがちなのが、人員計画との整合性です。プロジェクト型ビジネスでは、売上計画を達成するために必要な稼働時間が、在籍人員と採用計画でまかなえるのかを必ず検証しなければなりません。売上は毎年2割伸ばす計画なのに、人員はほとんど増えない。そうした計画は、単価の大幅な上昇か外注の拡大がない限り成り立ちません。売上計画、人員計画、外注計画、そして粗利率の前提が一本の線でつながっていることを示せれば、事業計画の説得力は大きく高まります。

内部統制とガバナンスは「身の丈で、しかし実効的に」

TPMにはJ-SOXの適用がないとはいえ、上場会社として最低限整えるべき内部管理体制は当然あります。ここで気をつけたいのは、一般市場向けの重厚な規程集やフローチャートをそのまま持ち込んで、現場が回らなくなることです。大事なのは、自社のリスクがどこにあるかを見極め、そこに的を絞って実効的な統制を置くことです。

プロジェクト型ビジネスで最もリスクが集中するのは、受注の入口です。見積の段階で原価の見積根拠と想定粗利率を記録し、一定の金額や粗利率を下回る案件は上位者の承認を必須にする。受注時には契約条件、特に検収条件や支払条件、追加費用の扱いを確認する。この「受注前審査」の仕組みがあるだけで、赤字案件の発生率は大きく下がります。

次に、実行中の案件のモニタリングです。原価の消化率と進捗率の乖離が一定の水準を超えたら、自動的にアラートが上がり、責任者が経営会議に報告する。赤字化が見込まれる案件は、隠さずに早期にエスカレーションされる文化と仕組みが必要です。赤字案件の報告が遅れる会社では、損失引当の計上も遅れ、決算の信頼性が損なわれます。

ガバナンス面では、取締役会の定期開催と議事録の整備、職務権限規程による決裁ルートの明確化、そしてオーナー企業にありがちな関連当事者取引の整理が欠かせません。社長個人や親族の会社との取引は、必要性と取引条件の妥当性を説明できるようにしておくか、上場前に解消しておくことを強くお勧めします。

規程類についても、最初から数十本をそろえる必要はありません。まずは取締役会規程、職務権限規程、経理規程、原価計算規程、そして受注・契約管理に関する規程など、プロジェクト型ビジネスの業務の根幹に関わるものを優先し、実際の運用と一致させることが重要です。規程に書いてあることと現場のやり方が違えば、それ自体が指摘事項になります。また、社長直轄で独立した立場から業務をチェックする内部監査の機能も必要です。専任者を置くのが難しい規模であれば、他部門の担当者を兼務で任命したり、外部の専門家に委託したりする方法もあります。大切なのは、統制の仕組みが紙の上に存在するだけでなく、記録として運用の痕跡が残っていることです。

加えて、プロジェクト型ビジネスで必ず確認されるのが労務管理です。納期前の長時間労働や、未払い残業代の有無は、上場審査において重要な論点になります。ここで効いてくるのが、勤怠記録と工数記録の整合性です。勤怠上の労働時間より工数の合計が大幅に多い、あるいは少ないといったずれは、どちらかの記録が実態を反映していないことを示唆します。工数管理を整えることは、原価計算の精度を上げるだけでなく、労務リスクを可視化し、適正な働き方を担保する仕組みにもなるのです。

準備スケジュールの目安と、私が現場で見てきたつまずき

TPM上場までの期間は会社の状況によって大きく異なりますが、私の支援経験では、本格的な準備着手から上場まで概ね1年半〜2年程度を見ておくのが現実的です。管理体制の整備に半年から1年、監査法人による監査を受ける期間、そしてJ-Adviserによる調査と申請手続きという流れになります。一般市場では直前2期分の監査証明が求められるのに対し、TPMでは直近1期分で申請できる点は時間的に有利ですが、その1期の決算数字を監査に耐える精度で締められることが前提になります。

つまずきの典型は、監査法人の確保の遅れと、月次決算の早期化の遅れです。近年は監査法人側の受け入れ余力が逼迫しており、準備の初期段階から並行して探し始めなければ、スケジュール全体が後ろ倒しになります。また、プロジェクト別の原価集計が手作業に依存している会社では、月次決算が翌月20日を過ぎても締まらず、経営会議で使える数字が出てこないという状態に陥りがちです。

パートナー選びについても触れておきます。J-Adviserは、TPM上場の成否を左右する最も重要なパートナーです。候補を比較する際には、報酬体系だけでなく、自社の業種、とりわけプロジェクト型ビジネスの会計処理や事業構造への理解があるか、上場後の継続的な助言をどのような体制で行うのかを確認してください。監査法人についても同様で、収益認識や原価計算といったプロジェクト型ビジネス特有の論点に経験のあるチームかどうかで、準備の負荷は大きく変わります。

私自身、エンプレックス(現SCSK)でCFOを務めていた頃、上場企業グループの一員として、プロジェクト別の数字を毎月短期間で締め、説明責任を果たすことの重みを日々感じていました。ホリプロの経営企画では、作品や公演という性格の異なるプロジェクトを横並びで評価する難しさも経験しました。そして何より、新卒で入社した朋友建設で和議という局面に立ち会った経験が、私の原点にあります。現場は忙しく働いていたのに、案件ごとの採算の実態が経営に見えていなかった。数字が見えないまま拡大することの怖さは、今も私の仕事の根底にある問題意識です。

時間軸で整理すると、準備の最初の半年は「現状把握と土台づくり」の期間です。プロジェクトコード体系と工数入力、月次のプロジェクト別損益の作成を立ち上げ、並行して監査法人とJ-Adviserの候補と接触を始めます。次の半年から1年は「運用と定着」の期間で、規程の整備、受注前審査や案件モニタリングの運用、取締役会の定例化、月次決算の早期化を進め、その記録を積み上げていきます。最後の数か月は「説明と申請」の期間であり、監査を受けた決算数字と、運用実績の記録をもとに、J-Adviserの調査に答えていきます。どの段階でも、プロジェクト別の数字が仕組みとして出てくるかどうかが進捗を左右します。

まとめ:TPMはゴールではなく「経営管理を実装する期間」です

TPMは形式基準がない分、「自社の事業を数字で説明できるか」がストレートに問われる市場です。プロジェクト型ビジネスにとってそれは、プロジェクトコードで取引を一気通貫に管理し、工数と原価を正しく集計し、案件別の採算とフォーキャストを経営判断に使う仕組みを持つことにほかなりません。こうした仕組みは、上場審査のためだけのものではなく、上場後の業績予想や開示、さらにスタンダード市場など一般市場へのステップアップを目指す際の土台にもなります。

明日から着手できることとして、私は三つをお勧めしています。一つ目は、直近1年間に完了した案件をすべて一覧にし、受注時の見積粗利と完了時の実績粗利を並べてみることです。その差の大きさが、今の管理体制の実力を正直に示してくれます。二つ目は、工数入力の実態を確認することです。誰が、いつ、どの粒度で入力しているのかを見れば、原価計算の信頼性がおおよそわかります。三つ目は、上場の目的を経営陣で言語化し、共有することです。この三つを押さえるだけでも、TPM上場準備の見通しは格段に立てやすくなります。

なお、TPM上場後に一般市場へのステップアップを視野に入れる場合には、内部統制報告制度への対応や、より厳格な開示体制が求められることになります。TPMの段階でプロジェクト別管理の仕組みを確立しておけば、その移行はずっと滑らかになります。TPMから次の市場へ向かう戦略については、本コラムの関連記事でも詳しく取り上げていますので、あわせてご覧ください。

私たちが提供している「eMplex PBM」は、プロジェクト別の工数・原価・収支と着地見込みを一つの基盤で管理するためのサービスです。上場準備の過程で求められる案件別の根拠資料や、月次の予実管理を仕組みとして回したいとお考えの企業に、選択肢の一つとしてご検討いただければと思います。

上場準備は、会社が「社長の勘で動く組織」から「仕組みで動く組織」へと生まれ変わる、またとない機会です。TPMを単なる看板としてではなく、経営管理を実装するための期限付きプロジェクトとして活用していただきたい。それが、数多くのプロジェクト型企業の数字と向き合ってきた私からのメッセージです。

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